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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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506:セラ対カッパ

「……場を整える気はないってことねっ!」

「否、それはそれじゃ!」

 カッパはセラに止められていないほうの拳を横へ突き出した。その動きを目で追うセラ。カッパの腕は宙に浮いた水の玉に入った。

 それに訝しむより早く、セラは視線の方向とは反対側から、強かに頬を殴られた。吹き飛ぶ。

 大通りを一直線に、転がるでもなく吹き飛ぶ。景色は残像になって全ての色が混ざって見えた。

 身動きが取れない。あまりの力に、抗えずただ吹き飛ぶ。

 永久に止まらないのでは、セラがそう考えた瞬間だ。

 セラの腹に強い衝撃が走り、彼女の身体は地面に叩き付けられた。「っぁが…………!」

 それだけでは終わらない。視界はぶれたままだが、カッパの追撃が降ってくるのをセラは感じ取る。彼女は空間を拡大する。とにかく後方へ逃れようと。

 ゆったりと流れを緩くする時の中、視界が定まったセラはカッパの鱗に覆われた拳が頬にわずかに触れるのを見た。

 間一髪。

 力が伝わるより早く、セラは後方へとトラセードを成功させた。転がり、体勢を立て直す。さっきまで彼女がいた場所は竜と化したカッパの拳が刺さり、盛大にひび割れ、土煙を立てていた。

「ほぉ……今のが躱されるとはのぉ」拳を地面から引き上げるとカッパはセラを見る。「それが空間伸縮か。渡界術より厄介やもしれん……が、関係ない。今も触れることができていた。今以上の速さならば、捉えられるということ。竜の筋力ならば、造作もないこよぉっ!」

 翼は使わず、脚力でセラに迫るカッパ。飛翔するよりも速かった。セラの感覚は置き去りにされ、彼女が気が付いたときには懐を許してしまっていた。オーウィンを構える時間もなかった。

 カッパの身体が沈み、拳を振り上げる。ただ身体を屈めただけなら腹部の衝撃だけに留まっただろう。しかし、カッパの脚はいつの間にかできていた地面の水溜りに深々と入っていた。そしてその脚の出どころは、セラの背後に浮いていた水玉だった。

 セラは腹を殴られ、背を蹴られた。強烈な衝撃に挟まれた。

「ぶぁっ…………」

「まだじゃぁ!」

 カッパはそのまま地面の水溜りに消えると、セラの背後から全身を現してきて馬乗りとなった。セラの手からオーウィンが零れた。離れた愛剣に手を伸ばすセラ。その手首に黒き枷がカッパによってはめられた。

 呪具。

 セラの中に不快な浮遊感が生まれる。纏っているヴェールがざらりと揺らいだ。

 ナパードが封じられた。恐らくオーウィンを呼ぶこともできなくなった。

「こうなってしまえば容易いものだ。どう殺されたい。セラよ?」

 カッパはセラの背に乗ったまま、彼女の顔を覗き込む。セラは抵抗を試みるが、竜化によって高められた力に、カッパはびくともしなかった。

 一瞬。わずかな瞬間だけでも呪具から解放されればいい。そうすればその瞬間にナパードで拘束を逃れることができる。

「はっ!」

 セラはカッパの下に花びらを残し、風圧と共に消えた。カッパから離れたところに姿を現し、立ち上がる。手枷の呪い、そして気魂法による疲労が彼女の呼吸を不規則にする。

 手枷を外そうとしてみるも、外れない。そうこうしているうちに、カッパが後ろから現れた。その拳を躱し、蹴りを繰り出す。闘気を迸らせた彼女の蹴りはしっかりとカッパを仰け反らせる。だが、手枷のせいで気分の悪い状態の彼女は、その蹴りの反動で自身も体勢を崩す。

 カッパが素早く立て直し、隙だらけのセラへ向け口から水を吐く。セラは崩れた体勢を自らさらに崩すことで細く鋭い水の一撃から逃れた。

 前転し、しゃがんだまま、遠くにあるオーウィンに手を伸ばす。呼ぶ。

 だが、剣はその手に納まることはなかった。やはりナパードを封じられている影響。自ら取りに行くしかない。セラはそう決めるが、カッパは当然容赦することなく攻撃を続ける。

 セラはカッパとの攻防を徒手空拳でこなしつつ、どうにかオーウィンへとの距離を縮めていく。

 と、ようやく手が届くところまで二人が来ると、カッパは攻撃の手を止めた。セラは訝しみながらも、好機と見て距離を取り、オーウィンを拾おうと手を伸ばす。

 ぽちゃ……。

「ぁ!?」

 セラの手より早く緑の鱗の手が水溜りから出てきて、フクロウを捕まえると、沈めた。

「残念だったのぉ、セラ」

「……っ!」

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