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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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497:裏打ちされた僥倖

 先読みがことごとく、無に帰す。

 剣の柄の頭で殴打された。口の端が切れた。

 オーウィンを翻し、反撃した。空を斬った。

 碧きヴェールが薄くなったように感じる。疲労や傷からか。

 離れた場所からゆったりと自身の方へと向かってくるフェースを見やる。

 見つけなければ。

 フェースはセラが触れないナパードを破るかもしれないとという勘を受けて、ナパードと剣術だけの戦い方をやめた。その技術はセラの知るもの、知らぬものと多種多様で、エァンダと本気で戦ったらこんな感じかもしれないと思わされる。

 だが今のセラにとって重要なのは、触れないナパードを自分が破れる可能性を持っているという事実だった。敵とはいえ勘を技術として会得しているフェースの言葉は、その確信を得るには充分だった。

 そのたった一つを打破することができれば、他の技術は未知のものだったとしても対処できる。今現在見て、受けている限りでは大丈夫だと。

「なかなかしぶとい。こうなるとどちらが先かですね」肩を竦めながらもフェースは余裕の笑みを浮かべる。「貴方が私の力の対処法を見つけるか、私が貴方を殺す、ないしは動けなくさせるか」

 セラは口の端を拭う。

 そして駿馬で駆けだす。敵の目前に到達すると、身体を低くして急停止。ヴェールが慣性に従って揺らぐ。剣を振り上げながらも、フェースの右へ跳躍する。

 視界が青白くなる。

 右へ跳んだはずが、前面に戻された。剣が振り下ろされている。幸いオーウィンは振り上げていた。防ぐ、寸前に後方にわずかにトラセードで移動する。

「っ……」

 フェースが空振り、そこへセラは駿馬で再び接近して、翻した剣を振り下ろす。しかし先読みされていることをセラは視線で追っていた。剣を振り上げるに際してがら空きとなったセラの懐に、フェースが手の平を向けている。

 衝撃。

 セラの身体は後方へと吹き飛ぶ。数度回転した後、体勢を整えて着地する。

 ――惜しかった。

「……さっきから奇異な技だ」

 フェースもトラセードという技術は知らない。彼がセラの動きで唯一先読みができず、対応しかねている。しかしこれも時間の問題だろうとセラは思った。数を多く見ていけば、そのうち使う気配も読まれることだろう。なんとしてもトラセードの優位を残した状態で触れないナパードを打ち破りたいというのがセラの心内だった。

「お互い様っ!」

 ナパードで背後を取るセラ。音のないナパードもどうせ読まれているとわかれば、声も出てしまう。そして仕組みは明白にならずとも、フェースという人間がここでセラのことを跳ばすだろうという予想はできる。ここまでの戦いからもそうだが、なにより、自身が跳んで躱すとなればセラは慣れたものとして先読みができる。優位に立つためにはセラを跳ばすのが最良の手なのだ。

 いいや、違う。セラはオーウィンを振るいはじめながら閃いた。トラセードの優位を残した状態でフェースの能力を打ち破る必要はないではと。

 背後へ跳ばれたことを先読みしているフェースがセラを跳ばしにくる。ではそれよりも早く、敵の先読みできないトラセードでその場から動いたらどうなる?

 視界が青白くなる。

 セラは横へずれるよう空間を拡大する。

 ――遅れた。

 思考した分の後れを取ったセラは、今のは当然失敗だと思った。しかし、それが彼女にとって僥倖だった。

 セラは横へずれていた。自分が思っていた場所。移動した感覚はナパードではなく、トラセード。

 セラの見据える先、フェースが仮面の奥の瞳を見開いていた。

 ――これか。

 一瞬止まっていた二人の時間が動き出す。セラが踏み出し斬り込んだ。それをフェースが受け止め、二人は剣をさばき合う。

 と、セラの視界が青白く覆われる。すかさずセラはその事実を確認するように、空間を拡大する。

 自らの移動。セラは口角を上げる。

 見つけた。 

 離れて立つ仮面の男が歯ぎしりをした。

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