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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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494:抜剣

 関所を通らなかった。

 セラとゼィロスが手分けしてナパードを使って全員で戻ったのは、直接スウィ・フォリクァの大通りだった。

「……なんだ、これはっ!?」

 悲鳴と怒号、争乱の騒音で溢れていた。夜の静けさは、奪われていた。

「あれは鍵だったんだ。奴らがここへ攻め込むための」

 コクスーリャは言いながら、居住区の向こうを示した。ぽっかりと巨大な穴が空いていた。そのあたりから殺意交じりの気配が多数出てきているのをセラは感じた。

「裏切りの発覚で時期は選べなかったんだろうが、それでも虚はつけた」

 セラは拳を握った。第二の故郷ともいえるこの場所までも『夜霧』に壊されるというのか……。違う、そうはさせない。

 オーウィンを抜いた。

 急襲に対してもそれなりに対策は取らているだろう。戦士はこういった時どう動くべきか、ケン・セイたちに教えられているはずだ。現にすでに何人かは応戦している。それでも、時間帯が悪い。万全の準備が整っている戦士は半分に満たないだろう。ならば自分が彼らが準備をする時間を作る。

「わたし行くよ、伯父さん!」

「ああ。ケン・セイ、コクスーリャも頼む」

「当然」

「俺の不注意が招いたことだ……必ず取り戻す」

 三人の戦意に頷くと、ゼィロスはテングとユフォンにも指示を出す。

「テングは俺と非戦闘員の避難と守護だ。ユフォン、君は外に出ている戦士を出来る限り呼び戻しに回ってくれ」

「はい」

 頷いて、ユフォンはその姿を渦巻き歪ませ、消えた。セラはそれを背中で感じながら、戦火へと身を投じるのだった。


「ヅォイァさんがいる。それにヌロゥも! 先に行くねっ!」

 感覚をより正確に研ぎ澄ませ詳細を探ると、セラは師範と探偵を置き去りに跳ぶ。

 唐突に棒と歪んだ剣の合間に入り込む。

「ジルェアス嬢!?」

「舞い花ぁあっ!」

「ふっ!」

 振るわれていた二つの武器に対し、セラは見事な反応を見せる。碧き光宿せしその瞳で捉えた二人の動きに合わせた。ヌロゥの剣にオーウィンを上から押し当て受け流し、そこにヅォイァの相棒ヅェルフを受け止めさせた。

 がっちりと噛み合った三本の武器の中からオーウィンを引き抜き、後ろ手に離す。代わりにヅェルフを握る。その行動に対して従者は瞬時に自身がやるべきことを理解したようで、パッと相棒を放し、主の愛剣を受け取った。

 剣に上下はあるが、棒に上下はない。

 セラはヌロウの剣にしっかりと引っかかった棒を自身と共に転じさせる。しなりを見せたヅェルフはヌロゥ・オキャの首元へ一直線。

 だが空気の壁に阻まれる。セラはそう先を読んだ。棒をそのまま置き去りにして碧きヴェールと共にその場から消えると、ヅォイァの後方へ姿を現す。そして駿馬だ。

 従者の手に握られたオーウィンを、その手に納め直し、振り上げる。空気をも裂くほどの加速を空間の圧縮によって与えて。

 空気は裂けた。そして暗い藍色の光も裂いた。

 刃はぬらっとした男には届かなかった。なにひとつも斬った感触はセラの手には伝わらなかった。まさに、空を斬ったのだ。

「今のは、渡界術では?」

 ヅォイァが自由落下する相棒をすくい取りセラに尋ねた。彼の言う通り、今しがたヌロゥがいた場所には、まだ花びらが待っていた。暗い藍色の花びらだ。

「フェース」

 ヌロゥの気配はその場から遠く離れた場所へ移動していた。代わりに、セラが振り向く先には顔の上半身を仮面で覆ったナパスの民がいた。

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