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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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493:裏はなく、ただ表

 友の登場に黙りこくったカッパに対し、コクスーリャが畳みかける。

「虹架諸島の調査と再調査からの壊滅。バルカスラと双子の件。それに『黒・白・七色戦争』。あの戦争では双子もとい三つ子の特性で情報が洩れたのだと思わせるために、双子の裏切りを明らかにした。でも情報伝達はあなたの役目だった。だってそうだろ? 双子が本部野営地に来たのはセラフィの到着よりあとだ。通信機を使うこともできただろうが、他人に聞かれる恐れがある。だからあなただ。水があれば空間を移動できるあなたにはウェル・ザデレァの満潮は移動にもってこいだ。白輝・評議会連合軍の軍議の内容をンベリカに聞いたのち、『夜霧』の野営地へと向かった。調べれば調べる程に、あなた司祭より疑念の塊だった。……だが、彼のように明確な証拠がないのが厄介だった。だから罠にかけた。もう、認める認めないの次元じゃないぞ」

 コクスーリャはここでもまた鋭利な雰囲気で、カッパを目で射貫く。

「ふふふ……」カッパは低く笑った。「確かに、認める認めないの次元ではないのぉ、コクスーリャ」

 セラは眉を顰める。「カッパ……コクスーリャの名前」

「お主の名もはっきりと言えるぞ、セラよ。セラフィ・ヴィザ・ジルェアス、のお?」

「否定の余地、無し」ケン・セイが刀に手をかける。

「コクスーリャの調査からはわからないことが俺にはある」ゼィロスがカッパの一つ目を見据える。「どうしてお前が裏切りを……」

「ゼィロス。そういった話は拘束したあとだ」

 コクスーリャが言って一歩前へ出ると、カッパは彼を手で制す。そしてゼィロスに目を向けて口を開く。

「裏切り? 違うぞ、ゼィロスよ。わしはもとよりそちら側ではない。すべては最愛なる妻と娘のため」

「ユキメとサユキ?」テングが訝しむ。「馬鹿げたことを言うでないぞ、カッパよ。異空にとっての害悪たる所業があの二人のためだと?……いや、そうか二人を奴らに人質に――」

「違う! 能天気な貴様は知らんのだろうから教えてくれるっ……! ユキメとサユキは異界のものに殺されたのだ! 憎い!……憎い憎い憎いっ!」カッパの一つ目が血走る。「わしはこの空を呪った。純なる愛をもって、異空の破滅を願った。そして、叶った! あのお方が、同じ想いを持つ者としてわしの前に現れたのだ、共にゆこうと! あの方の望みがかなった暁には、ユキメとサユキはこの世に戻ってくるのだ!」

 空間にカッパの声が響く。その残響が消えると、ユフォンがまるで説得するように言う。

「髑髏博士の研究のことを言っているなら、あれはクェト・トゥトゥ・ス本人が殺した人間じゃないと駄目なはずですよ。カッパさん、あなたは騙されてる」

 それを否定するのは、カッパではなくセラだ。

「違うんだよ、ユフォン」

「え?」

「カッパ。あなたが言ってるのは、ヴェィルの創造の力でしょ?」

「さてな?」

 カッパは肩を竦めた。しかしその顔は知らない顔ではなかった。恐らくは呪いによりこれ以上ヴェィルについて話すのは危険と判断したのだろう。

「もういいだろ、拘束する」

 コクスーリャはそう言って、腕を振る。目に見えないロープによって拘束する技術だ。しかし、カッパが身を屈めたことで狙いが外れたらしい。後方でぱしゅりと弾ける音がした。

「もういい、それには賛成だ。だが捕まる気は毛頭ないっ!」

 カッパの手がチェストの中に入っていた。そして引き上げられた手には、鍵が握られていた。『悪魔の鍵』。

 テングが叫ぶ。「逃がすなっ!」

 セラをはじめ、戦士が動く。ナパード二つに駿馬が二つ。

「遅いわっ!」

 カッパは懐からビンを取り出し、地面に叩き付けた。

 セラ、ゼィロス、ケン・セイ、コクスーリャ。四人の手練れの手が、空を掴んだ。

 床にはビンの破片。水溜り。わずかに波打つ。

「そんなっ、四人が捕えられないなんて」驚愕するユフォン。すぐにコクスーリャに尋ねる。「それに『悪魔の鍵』に見えるだけの鍵を持ってた。裏切りが発覚した以上、あれはもう必要ないんじゃないんですか?」

 ユフォンの問いはセラにももっともだと思えた。

 状況だけが示しているカッパの裏切りまでを暴くのがコクスーリャの作戦だった。その餌となったのがあの鍵だった。コクスーリャの考えではあの鍵は呪いで姿こそ変えているが連絡のための道具であり、誰の手元にもなく保管されるとなれば必ず取返しにくるだろうと。そこでカッパの裏切りを白日のものとに晒すものだった。

 それは成功だろう。しかしなぜカッパは自らが逃げるだけでなく、鍵を持ち出したのか。それが筆師をはじめとした全員の疑問だった。

 問いに対してコクスーリャは、しばし黙った。顎に手を当て、考え込んでいるようだ。

「まさか……連絡の道具じゃない? ではルルフォーラはどうして鍵をこちら側に……?」

 コクスーリャははっとなり全員を見回した。そして当たり前のことを零す。 

「鍵は、扉を開けるものだ」

 ゼィロスがいらつきを隠さずに(ただ)す。「どういうことだ、コクス!」

「そんな暇はない! 戻らないとっ!」

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