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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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492:明るむ

 それから二人は太陽のないスウィ・フォリクァの空、その薄光がさらにいっそう薄くなる夜まで時間を共にした。しかし二人はその時間を愛おしいものにはしなかった。

 セラとユフォンが共通して『ズィーがナパスのために尽力しているときに進展はない』と考えているからだ。そしてもう一つ、休息は本当にひと時なのだ。二人を行動に移らせる事態が起きた。

 ユフォンの懐が細かく震えた。

 彼はその原因を取り出す。一片の紙だ。

 セラは彼と共に紙面を覗く。

『来た』

 まさに今、その瞬間にナパス語でそう書かれた。これは『情報の翼』によりたった今届いた手紙だ。フィアルム人同士でない場合に遠方の者に情報を送るために用いる紙をユフォンは持たされていた。もちろん、探偵に。

 さすがに渡界人に変装していたことだけのことはある。その超学習能力でナパス語も容易く習得したのだろう。セラはそう思いながら送り主の気配を探り、頷くと、ユフォンと共に跳んだ。


「おいおい、今度はセラとユフォンかよ。何事だ?」

「先ほどゼィロス殿とケン・セイ殿もお出になられたばかりですぞ」

 ラスドールとマツノシンが不思議がっているが答えている時間も、権限も二人にはない。

「ごめん、急いでるから」

 セラはユフォンを伴い、今度こそ目的地へと跳んだ。


「コクスーリャ」

 灯りのない真っ暗な空間。その柱と棚の陰に潜む探偵に、セラは潜めた声をかけた。

「まったくゼィロスといい、君といい。ナパードで来るなよ。光でばれたらどうする」

「あ……ごめん」

「いやいい」コクスーリャは嘆息気味に言う。「実際こちらには気付かれてないからな」

 コクスーリャはゼィロスのことを口に出したが彼の気配はセラでも感じられない。恐らく一緒に来ているであろう、ケン・セイの気配も。

「それにしても暗い」ユフォンが呟く。「僕にはなにも見えない。セラにはもちろん見えてるんだろ?」

「うん。薄暗い程度だよ」

「灯りが点けられるまで、僕は役割を果たせないな」

「安心しな、ユフォン。もう明るくなる。そして完全に明らかになる」

 陰からコクスーリャが動いた。

 セラもそれに続く。「ユフォンは明るくなるまで待ってって」

「ははっ……もちろん」

 探偵のあとに続きセラはチェストを物色する人影の後ろに静かに立った。別の物陰から隣りにゼィロスとケン・セイが出てきた。

 ゼィロスはコクスーリャと目を合わせ、頷くと口を開く。人影の名を口にする。セラがコクスーリャから聞いていた、もう一人の裏切り者の名を。

「カッパ。そこでなにをしている」

 それと同時に空間に明かりが灯った。だだっ広い空間。

 ここは巨人の倉庫だ。評議会が所有、保管する数多の物がうずたかく棚やチェストに納められている。

 そして、明るみに出た人影は緑。一つ目と嘴。開けられたチェストの前で四人を、いや、ひょっこり出てきたユフォンも合わせ五人を振り返り驚きの表情で固まった。それも束の間、にこやかに笑む。

「どうしたんじゃ、揃いも揃って」カッパは背後のチェストを示す。「わしはこの通り、ンベリカより押収した品を確認しておったところじゃが」

「確認?」コクスーリャが問いただす。「それなら俺が済ませ、目録も作ってあるが?」

「……すまない、コクスウリアよ。わしは未だにお主を信用しきれておらぬでな、それで自らの目でも確認をと」

 ケン・セイが刺すように言う。「ンベリカの監視、放り出してか」

「任を受けたとはいえ、さすがにずっとはできん。ちゃんと交代を頼んだ。今はテングが代わってくれておる」

「そしてわしはヌォンテェとピョウウォルに代わってもらったわい」

 真っ赤な顔の男が物陰から出てきて、セラたちに並んだ。らしくなく悲痛な声色だ。

「わしは来ようか、来るまいか迷ったぞ……わが友よ」

「テング……」

「もう終いだ、カッパよ」

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