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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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491:安らぎを共に

「司祭である俺のもとへゼィロス殿が評議会、いやまだそのときは名前すらなかった集団への参加を求めてくることは、おおよそ予想がついていた。ヌロゥはそこに目をつけたんだ」

 幻覚に住まう山高帽の男プルサージの隣の檻にンベリカは入れられた。あのあと彼は反論を口にすることはなかった。おとなしく反抗をすることも。

 服装はそのまま。だが例の鍵をはじめとした所持品はすべて没収し、コクスーリャがアルポス・ノノンジュにある評議会の倉庫に保管しにいった。そして力を奪う手枷をはめている。この手枷は鍵束の民が使う力を閉じる能力を応用して作られたもので、呪いの類は一切使われていないものだ。

 セラは記録官のユフォンと共に、現在手の空いていたカッパが任されることとなったンベリカの監視及び情報の引き出しに同席していた。

 ンベリカは備え付けられた椅子に座り視線を落としつつも、澱むことなく情報を口にする。裏切っていたとは思えぬほど潔く。

「あいつは世界を破壊せず残しておくことで利用することができるとあの方に進言した。自らが生まれ育った世界を献上したんだ。加えて俺も呪わせることで退路を断つことも忘れなかった。俺は手を貸すしかなかった。チルチェのために」

 評議会の存在が現れる前から、ヌロゥ・ォキャは対策を練っていた。なんとも周到だ。それでいてやはり非情だ。自身の世界を自身の野心のために用いることもいとわない。

「『夜霧』にばれぬよう、我らに打ち明ければよかったろうに」

 カッパが言うとンベリカは一つ目をキッと睨み返した。

「ん?」

「…………そんなことができれば、最初からそうしていた」

「まさか、そこにも呪いが?」セラは問う。「そもそも自分で呪いを解こうとは思わなかったの?」

「セラ、お前はまだ呪いにはあまり詳しくないようだ。呪いを解くという行為はその呪いをかけた者より大きな力が必要になる。単純な力で敵わなくとも、膨大な時間をかけるなりしてな」

「ヴェィルはの力は強大、か」とユフォンが静かに言う。

「それもあるが、違うんだ。ユフォンくん。解放には、繋がる瞬間がある」

 苦し気に、絞り出されたその言葉に聞いていた三人は声を発せずに察した。

 暗い沈黙が牢屋にどんよりと漂う。

 それをカッパが咳払いでまさに払い、それから嘴を動かす。

「今日の聞き取りは終わりにしよう。今日の今日で我らも、お主も混乱しておる。互いにな。時間を置き、明日以降に続きをしよう。ユフォン、それでいいな。今日のところは、本日の評議の内容をまとめておいてくれ」

「はい」

「明日も一緒に来てもいいよね、カッパ」

「よかぁ。お主も今日は休め、セラよ」

「うん」

 こうしてカッパを残し、セラとユフォンは牢屋をあとにした。


「これからどうなるか、だね」

 セラの自室に戻ると、椅子に座りながらユフォンは言った。

「とりあず、今日の評議のことは賢者だけには報告が回るけど、情報はすぐに全員の知るところになるだろうね。賢者から裏切り者が出たんだから。双子の時より衝撃だ」

 セラはベッドに腰掛ける。「特殊な評議だけど箝口令もなかったからね。伯父さんも、ノーラ=シーラのときに広まるのを止めるのは無理だってわかってるんだよ」

「コクスーリャのことは今ジュンバーが広報用にチラシを作ってるだろうし、これで彼もしっかり評議会の仲間入りだね」

「ケン・セイが受け入れるかどうかだね」セラは微笑む。「闘気のことでどうなるか」

「ケン・セイさんのことだから、戦って決めそうだね」

「そうかもっ。『コクス、面白い、許そう』みたいなね」

 二人で笑い合う。久方ぶりに訪れる、ほんのわずかな安らぎの時間。

 今後のこと、エレ・ナパスのこと、ナパスの民のこと、ガフドロのこと、ヴェィルのこと。やるべきことはいくらでもあった。人のため、異空のため。

 それでもこのひと時は、休息に当てたい。カッパが言ったように。

 コクスーリャの話を聞いたとき抑えていた感情に、正直になる時だ。裏切りに心痛め、正しい処理を。

 ユフォンがベッドに身を移し、セラの肩を抱く。

 涙は流さない。セラは静かに、彼に頭を寄せた。

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