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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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489:白き騎士の遺言

「はじめは浄化をやめたンベリカさんへの怒りで考えが至らなかったが、呪いをかけようとした当人であり、呪いや祈りに精通していた彼女は後々冷静になり疑問に思ったことだろう。敵襲と浄化の中断。その二つの瞬間がほぼ同時なのはおかしいと。浄化に集中している人間がいくら同郷の人間であるヌロゥ・ォキャの気配が現れたからといって、すぐに気付くのありえないとね。思い至った彼女はあなたを問い詰めたはずだ、ンベリカさん。内通者ではないのかと。それで一戦交えることとなった。違いますか?」

「違う」ンベリカはきっぱりと言い切る。「キャロイ女史とは戦闘準備を整えたあとに会ったが、そのまま二人で外へ向かっただけだ。確かに顔を合わせたことで浄化をやめたことを叱責されたが、それ以外の会話はなかった」

「その道中にシャンデリアがあなたの頭上に落ちてきた。それを助けたキャロイ女史が押しつぶされたと、それでいいですか?」

「その通りだ」

「そうですか。言質は俺だけでなく、ここにいる全員が取りましたよ、いいですね」

「ああ、間違いない。なんなら、コクスーリャ殿と同じ薬を飲んで、もう一度言ってもいい」

「そうしてもらうのが手っ取り早いのかもしれませんが、薬に細工をしたのではとあとから言われては元も子もない。ですので、しっかりとした物証を見せることにします。セラフィ」

 コクスーリャが目をセラに向けると、つられてンベリカはも彼女を見た。その表情はなぜセラの名が呼ばれたのかと、怪訝な色だった。

 そんな顔をせずに認めてほしかったとセラは一度目を閉じた。それから意を決めたサファイアを露わにすると、立ち上がりコクスーリャの隣に立った。無言のまま行商人のカバンに手を入れる。そこから彼女が取り出したのは、白を基調とした剣。その華やかな装飾も虚しくひしゃげている。

「キャロイの剣……鎧もある」

 言いながら剣を恭しく床に置き、今度はカバンからその外見より考え得る容量の範疇をゆうに超えた白き鎧を出すセラ。これも至る所がへこみ、その役割は今では果たせないだろう。

 鎧を剣に並べるセラ。

 これらがセラたちが取りに行った証拠だった。その主が眠るアズの地に。

「キャロイは……最後にンベリカが裏切り者だって伝えようとしてたんだって、今ならわかる。わたしが遮っちゃったけど、『司祭は繋がっているわ』って」

「馬鹿なこというな、セラ。剣と鎧が破損しているのはシャンデリアに潰れたからだ。それに死を目前に意識などはっきりしていなかった者の言葉だぞ。俺の無事を確認する言葉と、お前との友情を確認する言葉をとにかく伝えようと残る命をしぼって矢継ぎ早になっただけだ。それを繋げて解釈するなど、死者の魂が嘆くぞ」

 セラはンベリカに哀れみの視線を向けると、コクスーリャに向き直る。「……コクスーリャ、お願い」

「もちろんだ」

 コクスーリャは懐から、噴霧するためポンプの付いた小瓶を取り出した。中には青白く蛍光する液体が入っている。それを全員に示す。

「これは探偵の七つ道具『残り香追いし蛍』。どういうものかは実際に見せた方がわかりやすい。細工をしていないことも同時に証明できるからな」

 今度は懐からなんの変哲もないナイフを取り出す探偵。そしてそのナイフを自らの指先に押し付けた。じんわりと血が滲みだし、ナイフを汚す。その汚れたナイフをハンカチで拭くと、誰もいない窓際にナイフを投げた。ハンカチを指先に縛ると、彼はセラに小瓶を渡す。

「セラフィ、それをあそこのナイフに噴きかけてくれ。ひと噴きで大丈夫だ」

「わかった」

 セラが言われた通りにすると、反応はすぐに起きた。

 ナイフの先、拭われたコクスーリャの血がついていた部分に蛍光の粒たちが集まったかと思うと、それらはなんのためらいもなくコクスーリャに向かって一直線に飛んだ。まるではしゃぐ子どものようにぐるぐると彼の周りを飛び回る。

「ご覧の通りだ」薄く青く照らされながら探偵は言う。「この蛍は血の持ち主を探し出す」

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