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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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488:探偵が口にする名

「優秀な記録係が残した記録の中から、俺が引っかかったのは『黒・白・七色戦争』の記録だった」

 コクスーリャはユフォンを始点に、円形に椅子に納まる参加者の前を歩きはじめる。

「双子ノーラ=シーラの裏切りを『夜霧』自ら露見させたこの戦争で、その二人の他におかしな言動をとった者がいた」

 一人の椅子の前で足を止める探偵。

「身に覚えがあるでしょう、『空纏の司祭』」

「なっ……!?」ンベリカが椅子を軋ませ、コクスーリャを睨む。「なにを言うんだ。俺が裏切り者だと?」

「否定は当然だ」再び歩きだすコクスーリャ。「簡単に認めるような人間が裏切りなんて行為はしない。裏切り者だと指摘されて、暴れ出すなんてこともしないだろうから拘束もしない。そもそもこの場からは逃がすつもりはないからね」

「話しを勝手に進めるな……っ」

 立ち上がるンベリカ。そんな彼を隣り座っていたメルディンが制する。

「『空纏の司祭』殿。話を進めないことに~は仕方がないこと~ですよ。彼~の報告を聞かなけれ~ば、はじまりませ~んよ」

「……しかし……ぐっ」

 ンベリカは不承不承といった様子で腰を掛け直す。

「あなたのとったおかしな行動。もちろん俺はその場にいたわけではないから、すべて記録にあるものに限るが、些細なことはどうでもいいんだ。俺があなたを確実に仕留めるために話すのはたった一つのことだけだ」

 爽やかさは鳴りを潜め、コクスーリャは鋭利な雰囲気を醸し出す。

「鍵にかけられた呪い、その一連だけ。他を話すのは時間の無駄。漏洩した作戦が話し合われた軍議には、ここにいるメルディンさん、テムさん、セラフィ、そしてここにはいないケン・セイさん、ピョウウォルさんも参加していた。その中の誰かではという議論は一切なしだ。一気に明らかなものにする」

 雰囲気に呑まれたのか、あるい刺されたのか、誰もが声を出さずに彼の次の言葉を待った。全てを知るセラたち三人もだ。

「『悪魔の鍵』に見える鍵。今もお持ちですね? ンベリカさん」

「ああ」

 ンベリカは鍵を取り出す。凶悪な笑みの男と苦悶に歪んだ顔の男の彫像の鍵。視覚を狂わせる呪いは、敵襲により中断で解かれていないままだ。

「この通り、俺がしっかり保管している。場合によってはこの鍵を使いルルフォーラに呪いをかけることもできるからな」

 ンベリカののちの報告で鍵に呪いをかけたのはルルフォーラだったと判明した。これは評議会の記録にもしっかり記されている。そして評議会は部隊長に干渉するための道具として破棄しないことを決めたのだ。

「あの籠城中に呪いが解けなかったことは失敗だったが、今後に繋がっていることが俺にとってなによりの救いだ」

「繋がっているのは今後ではなく、『夜霧』でしょう」

「だから――」

「反論は結構。話を続けます」

 コクスーリャは足と口を動かし続ける。

「あなたは失敗したと言ったが、呪いの浄化はあなた自らが故意に中断した」

「言葉の綾だ。確かに自ら中断したことは否定しない。だがそれは敵襲があったからだ。そうだろ、セラ」

 名前を呼ばれたセラはいたって平然に応える。「うん、そうだよコクスーリャ」

「いいや、敵襲は理由じゃない。キャロイ将軍にルルフォーラを呪わせないためだ。仲間なんだから当然でしょう?」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」セラが発言したからか、テムが挙手して尋ねた。「記録には載っていないことだと思うんですけど? あなたの推測ですよね。そこに証拠はない。俺にはまるでンベリカさんを裏切り者に仕立て上げたいように感じられる」

「キャロイ将軍はなぜ亡くなったのか」テムの質問には答えず、コクスーリャは足を止めた。「まだ鍵の一連は話し終えていない」

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