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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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489/535

485:最初からだ

 薬草の芳香漂う自室にセラはいた。

 そしてもう一人、プォルテ・ボァフィロゥ。

 ケン・セイとの組手でトラセードと極集中の練度を見せたセラは、その戦いの最中に感じた気配の真相を問うために彼を部屋へ呼んだのだ。

「今度はわたしが見破る番ね」プォルテを真っ直ぐ見つめてセラは言う。「コクスーリャ」

 プォルテは爽やかに笑みながら、首を傾げる。「なんのことですか、セラさん」

 しらを切ろうとする彼をセラは黙って見つめる。彼女の中にはすでに答えがあるのだ、逃すことはない。

 彼は探偵だ。コクスーリャ・ベンギャだ。

 じっと見つめ続けるセラに対して、彼は折れる。その首元に手をあてがう。

「……視線を向けられたから」ぺリぺリと首元から顔に向けて肌が剥がされていく。「まさかとは思ったけど。極集中で感覚が鋭くなったか」

 そうして全て剥がされると、セラの知る爽やかな笑みを浮かべた男の顔が現れた。

「そう。あの状態でなら男女の差も、血の繋がりだってわかる」

 セラは彼に椅子をすすめ、自身も腰かけた。

「『夜霧』から隠れるために評議会に入り込んだの? 渡界人なのは、ゼィロス伯父さんが受け入れてくれやすいように?」

「潜入が明るみになったから隠れるためにここを選んだのは確かにそうだけど、プォルテになったのはゼィロスの提案だ。依頼主のな」

「依頼主? 伯父さんが? 伯父さんも知ってるの?」

「そうさ。なんなら『真実の口』飲もうか?」

「ううん、いい。でも、依頼人については話さない掟なんじゃなかった?」

「まあね。けど、セラフィにはばれたからな。それにどのみち俺とゼィロスの関係はもうすぐ語られただろうし、それが早まっただけのことだ」

「え、待って、いつから? 伯父さんとはいつから繋がってたの?」

 ゼィロスはコクスーリャもその一員である探偵の一族フィアルム人を探していたはずだ。前回セラが参加した評議の中でも、探偵と繋がるための仲介人すら知り合いがいないとわかることを口にしていた。そうなると、あの評議のあと、セラがトラセークァスで過ごしていた間に二人は繋がったということだ。

「最初からだ」

「うそ。だって伯父さんは……え? 本当にっ?」

 表情を変えない真面目なコクスーリャの表情に、セラが眉を大きく動かした。

「やっぱ飲もうか、『真実の口』」

「いや、ちょっと待って、考える……」

 そういってセラはしばし俯き、黙り込み、そうして顔を上げてコクスーリャにサファイアを向けた。

「わたしと会う前から、ううん、評議会がはじまるよりも前からだ。そうでしょ」

 コクスーリャは微笑む。

「伯父さんも知ってたんだ。わたしが話すより前に、グゥエンダヴィードの場所もヴェィルの名前も。でも、評議会では明かさなかった。評議会としての成果にしたかったんだ。あなたが自分の依頼で動いている探偵だと言っても信じない人もいただろうし、評議会の動きなく自分たちの情報が洩れたとなったら『夜霧』も警戒する」

「そうだ。思考が上手く回ってる。当然俺も知らないふりをしたけど、君がフェリ・グラデムに来ることは知っていた。そうだな、付け加えるとしたら評議会というより、君の成果にしたかったんだよ、ゼィロスは。セラフィ自身の達成感とか、評議員や賢者たちへ君という存在を強く示すためとか。親心だな」

「伯父心だ。コクスーリャ」

 セラの部屋に、赤紫の閃光と共にゼィロスが現れた。筆師ユフォンを伴って。

「セラ! やっと会えた、ははっ……ってコクスーリャっ!?」

 ユフォンは再会に喜びの顔をしたのも束の間、驚きの声を上げた。

「プォルテ改めコクスーリャだ。よろしく、記録係のユフォン」

 立ち上がり握手を求める彼に対し、筆師は乾いた笑い声をあげて躊躇う。それでもセラが頷くのを見ると、探偵の手を取ってしっかりと挨拶をした。

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