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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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487/535

483:左袖を落とす者

 灯台の光を抜けると、セラとさすらい義団は穏やかな光り差し込む渓谷世界に姿を現した。

 深い谷底にせせらぎ、小鳥のさえずり、草木の葉擦れが小さく響くその場所で、セラは彼らと別れの言葉を交わす。

「次に会うとき、勝負できること楽しみにしてるよ、ズィード」

「次に会う時かぁ……」苦笑するズィード。「セラお姉ちゃん厳しいなぁ」

 彼に同調してソクァムも笑う。「だいぶ先になりそうだな、ズィード」

「お前より先に俺がやるぞ、ズィード」ダジャールは言いながらセラに真っ直ぐな獣の瞳を向ける。「次は勝つからな、『碧き舞い花』」

 セラは彼らに頷き返すと、シァンに目を向ける。

「ウィスカさんとデラバンさんによろしくね、シァン」

「うん」ピャギーと身体を寄せ合うシァン。「みんなの居場所、教えてくれてありがとうセラ」

「ピャギっ!」

 シァンとピャギーをまとめて抱擁するセラ。離れると、さすらい義団の一員に順繰りに目を向ける。

「それじゃあ、わたしはここまで。ヒィズルもズィル・ヴォルンも座標教えたし、大丈夫だよね?」

「もちろんです。その辺は俺がしっかり」

 頼もしく応えるソクァムを確認すると、セラは口角を上げる。

「またね、みんな」

 彼女のその言葉に彼らがそれぞれに声を発するの待ってから、セラは彼らの前から花を散らして消えたのだった。


 関所。

「ただいま、マツノシン、ラスドール」

 うぬ、おう、と応える二人にセラは苦笑する。

「ナパスの民なのに、帰るのも一苦労ね。二回も中間点挟むなんて」

 訝るラスドール。「二回?」

「ううん、気にしないで」

 こちらも小首を傾げながら、右腕を上げるマツノシン。「……では、通しますぞ」

「うん、お願い」


「セラフィ。楽しむぞ」

 大通りに戻ってすぐに訓練場へと跳んだセラは、嬉々とする『闘技の師範』ケン・セイを前にオーウィンを構えた。

「まずはトラセードを見せてくれ」

 ヅォイァやテムも含めたたくさんの戦士たちが大きな輪を作り観戦に臨もうとしている中、一歩前に出ているゼィロスが言った。彼の隣には、ブロンド髪の男が一人立っている。セラがついさっき初めて目にした顔で、なにより関所を出た彼女をゼィロスの遣いだと言って迎えに来たのが彼だった。

 ケン・セイと対峙する前に伯父から簡単に説明を受けた。

 プォルテ・ボァフィロゥ、それが彼の名。そしてナパスの民であり、今の今までグウェンダヴィードへ出向いていたという。彼がゼィロスの言った適任者というわけだ。確かに実力者の気配はある。そのうえナパスの民ならば、頷ける。

 そしてイソラとルピは、無事だということも報せを受けた。潜伏しつつ内情を詳細に探っているという。危機的状況ではなく、単純に通信機が機能しないだけだったようだ。

「極集中については合図は出さない。二人の戦いの流れに任せる」

「うん」

「ゼィロス。前置き、長い」

 軽く目を瞠るゼィロス。「……これでか」

「ははは、面白いですね」プォルテは爽やかに笑った。「ケン・セイさんは」

「いいから。はじめる。いくぞ、セラフィ」

「うん。今日は勝っちゃうかも!」

「ありえんっ!」

 目の前で聞こえた師範の声。それがすぐに遠のく。拡大のトラセード

「っ!?……それが、そうか。面白い」

 空を蹴ったケン・セイの口角が鋭く上がった。かと思うと、彼は駿馬でセラに迫る。対してセラは、今度は圧縮を披露する。

 二人が、さっきまでの二人の中間地点でぶつかる。オーウィンと鍔のない刀が激しい音を響かせた。

「駿馬ではない。さっきのとも、わずかに違う。だが、同じものだ」

「拡大と圧縮の見分けがつくなんて、さすがケン・セイだね」

「もう、通用しない」

「さすがにそれは、ないでしょっ!」

 セラはナパードでケン・セイの背後へと移動した。そして剣を振るう。

「単純――っぬ!?」

 珍しいものがセラの目に映った。ケン・セイの焦り。振り返りざまに目を瞠り、身体を大きく反らす。それでも足りず、圧縮した空間を潜ったオーウィンが彼の主のいない左袖を斬り落とした。

 ケン・セイは刀を床に突き刺し、それを支えに後方へと飛び退いた。呼吸を乱しながら、セラを見た。

「シオウ以来、左腕、斬られた」

「ごめんっ今のは危なか、った…………」

 セラの言葉はしりすぼみに消えていった。師範が楽し気に口角を上げ、眼光鋭く、静かで長い息遣いになっていく。

 殺気に近い嬉々とした狂気が彼から伝わってくる。まるでそれに同調するように、セラはふっと小さく笑った。

 ヴェールが漂う。

 観戦する者たちは一様に異様な雰囲気に飲まれ、呼吸を一時忘れたようだった。

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