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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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486/535

482:さすらい義団

「わかった? これが実力差」

 街の広場。

 セラは白き獣人の背後、お灸をすえるように冷たく、刺々しく言い放つ。

「君は自分で飾りだと言った剣に、首を撥ねられられるところだった。手も足も出ないままに」

「……んぐ」

「……すげぇ」

「やはり、すばらしい」

「セラってこんなに強かったんだっ!」

「ピャギーっ!」

 五者五様の反応の中、オーウィンを納めるセラ。そうして悔し気に振り返るダジャールに手を差し出す。ダジャールは一瞬怯えたように身体を震わせて身体を退こうとしたが、それよりも早く、セラは彼の手を握った。

「ダジャール、だっけ? ズィードの友達なんだよね?」

「あ、ああ……そうだ」

「きつく言ったけど、めげないでね。単純な気配だけなら三人の中で一番強いのは君だから、自信持って」

「ああ、それは知ってる」

 セラはおどけて笑う。「気配、読めないのに?」

「……」

「わたしが教えてあげられたらいいんだけど、暇じゃないの。『昂揚する竹林(ズィル・ヴォルン)』のシズナさんを訪ねてみるといいかも。剣の達人の一人だけど、基本的な戦闘技術も教えてくれるはずよ」

「……」

 黙ったままセラから離れるダジャール。そしてズィードの方へ向かうとそのまま通り過ぎながら口を開いた。

「行く場所が決まったぞ。『昂揚する竹林』だ」

 過ぎていく獣人を追いながらズィード。「はっ! なんでお前が決めてんだ、ダジャール!」

「あ、そうだよ、そうだよ!」シァンも食って掛かった。「あたしヒィズルってとこ行きたい! 旅立つ前にお姉ちゃんたちに会うの!」

「知るか! 俺は感動の再会には興味ねーんだよ」

「みんな、喧嘩するなよ」

 そう宥めにかかったソクァムに対してダジャールはセラを一瞥して、口角を上げた。

「ソクァム、これは『碧き舞い花』のおすすめだぞ。行かない手はないだろ」

「! それは、もちろんだ」

「おい、ソクァム。お前まで! 団長は俺だぞ!」

「多数決ってことで」

「ヒィズル!」

「ちげー、『昂揚する竹林』だ!」

「俺が団長だ!」

 なにやら楽しそうに言い合いながら、去っていく若者の一団にセラは心を和ませる。だがそれも束の間、彼らが灯台の方へと向かっていることに気付くと、自分も行先が同じだと気付いて追いかけるのだった。


「さすらい義団?」

 世界の中心にある灯台への道すがらセラがソクァムに、ズィードの口にした『団長』という言葉について尋ねると、そう答えが返ってきた。

 いまだに言い争っている他の三人と一羽を見ながらソクァムが言う。

「そうです。異空を巡りながら人助けしようってズィードが言い出して。評議会には及ばないですけど、なにか異空のために行動を起こしたかったんですよ、あいつ。というか俺もなんですけどね」

「それでシァンも仲間に入ったんだ。いろんな世界を旅したいって言ってたから。でもダジャールは? 人助けなんてしなそうだけど」

「まあ、人助けはついでって感じですね、あいつは。世界を渡り歩いて色んな人と戦いたいってのが大きいです」

「武者修行か。ズィードより無鉄砲、というか向こう見ずというか、誰から構わず喧嘩売らないようにお願いね、ソクァム

「はい、それはもちろん」セラに頼られたことを素直に喜びながらも、彼は苦笑する。「でも、俺以外にそういうのできるやつ、もう一人ぐらい仲間にしないとだな。シァンもどちらかというとあっち側だから」

「さすらい義団の名前が、いいものとして評議で挙がるの楽しみにしてるね」

 そうしてさすらい義団と共に灯台に着いたセラ。

 最上階で回る光を前にズィードがセラの方を向いた。彼女は小首を傾げ返す。

「どうしたのズィード?」

「セラお姉ちゃん、戦う約束のことだけど……」

「今?」

「違う、違う。さっきの戦い見て、まだまだだなって思った。だから今はやめとく。この前の時も言ったけど、もっと強くならないと駄目だ。でも……やっぱさっきの見てさ、思ったんだ」

 どことなく沈む牙を有する顔。

「俺、勝てるのかな、って」

「……」セラだけでなく、その場にいた全員が静かに彼を見つめた。

「フェリ・グラデムで色んな戦士と戦って、旅立った時より強くなってるって実感してる。それでも、こんなに差があるのかって、悔しい。なんのために戦ってきたんだろうって――」

 セラは彼の頭に手を置いて、言葉を遮った。彼と目が合うと、口角を上げる。

「力の差がわかってるなら大丈夫。見極めて、少しずつ挑戦して、力をつけていけばいいんだよ。それになんのためにって、みんなを守るためでしょ? この世界のみんな、さすらい義団のみんな、異空で困っている人たち。そうでしょ?」

「そう、だけど……」

「人助けするのにそんなんじゃ駄目だよ。辛いことは団のみんなに相談してさ、一人で背負わずに頼んなきゃ。そのための仲間でしょ」

「そうだぞ、ズィード。俺たちはお前の考えに賛同して行動を共にするんだからな」

「うんうん!」

「ピャギー!」

「なよなよすんなら、俺が団長になってやるからな、覚悟しとけ」

「……みんな」

 仲間たちの顔を順繰りに見やっていき、最後にセラに戻ってくるズィードの瞳。完治とは言えないが、弱気が薄らいで見える。

 セラは笑いかける。

「あとさ、わたし勝たせてあげるなんて約束はしてないからね、ズィード。強くなってれば勝てるし、なってなければ負ける。それだけのことだよ」

 セラはズィードの背に手を回し、ポンと叩いた。

「ほら行くよ、団長くん。止まってなんていられない!」

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