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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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477:ただいま

「お、また来た」

「行ったり来たり、なにをなさっておられる、セラ殿」

「友達に挨拶してきたの。ほんとは一緒に来るはずだったんだけど来れなかったから」

 言いながら、セラは辺りを見回す。

 どこまでも真っ黒な空間。足元、円状の床だけが淡く光っている。床は人が三十人ほど並んで立てるくらいの広さで、縁はキッパリと断ち切れ、先は黒一色だ。

「これが関所、ってことだよね?」

 セラは正面を向いて、その空間にもともといた魔闘士ラスドールとモノノフのマツノシンに問う。「ああ」、「うむ」と二人が頷くとさらに続ける。

「ヒュエリさんの知識をジュコの技術で再現して入り口を限定するのは問題なくできると思ってたけど、これって明らかに別空間だよね? 白輝が技術提供を?」

「いやいや、セラ殿」マツノシンが首を横に振る。「それがしたちは関所の番こそ任されておるが、そういったことは存ぜぬのです。ですよな、ラスドール殿」

 頷くラスドール。「そういうことだ。詳しいことはゼィロスの旦那か、記録とってるユフォンにでも聞くんだな」

「わかった。……そういえば、ヅォイァさん、帰って来てる?」

 邪神から語られた自身の出生のこと、それにまつわること。セラが外している間に評議会や『夜霧』、異空全体がどのように動いたか。それらはラスドールが言うように、賢者や記録係に聞くのがいいだろう。ハンサンとの戦いの後、彼の懐から得た『追憶の鍵』もサパルかルピに渡すのも忘れてはならない。だが、その前に、関所を守る二人にだからこそ、従者のことを聞いておきたかった。

 トラセークァスを発ったのち、戻らなかった彼のことを。

「ああ、お前の従者のじいさんなら、三、四日前に。なぁ」

「ええ。ヅォイァ殿でしたら、すでに戻られておりますぞ」

「じゃあ、出てった? それとも出るときはここ通らない?」

「いや、出る時もここを通る。お前たち渡界人はいけなくもないみたいだけどな。うーん、今思えば変だよな。じいさんがお前のところに戻らないとか」

「それがしは、セラ殿がご命令なさっているが故に戻らないのかと思いましたが?」

「そっか……ありがと、ラスドール、マツノシン。とりあえず中に入ったら会ってくるよ」

「よし、じゃあ」

「通しますぞ」

 ラスドールとマツノシンは、視線を合わせると、少し距離を取った。そしてラスドールは左手、マツノシンは右手をそれぞれ相手に平を見せるように腕を伸ばした。すると二人の手のひらが光の筋で結ばれ、筋は次第に帯となり、壁となった。

「さ、通れ」

 ラスドールに促され、セラは光の壁に歩み入った。

 眩く包まれ、次第に視界は明瞭さを取り戻していく。そうしてセラが姿を現したのは、居住区と施設区のを隔てる大通りだった。

 ひとまずその場で気配を探るために集中するセラ。彼女のそれに合わせるように、胸元が青く煌めいた。

 没頭の護り石だ。

 ハンサンとの戦いで軟弱ガラスを割られてしまった首飾りだが、ネルによって新たな軟弱ガラスに納められた。次は簡単に割れないようにと、ガラスの上からキズナキという木の樹液を薄く塗ってある。このキズナキ、言うまでもなく二人の姫の絆が強まる経過を見届けていたトラセークァスの森の樹木たちのことだ。傷ついたそばから治癒していく、あの木だ。

 集中は深まるが、当然ヴェールは纏わない。極集中状態にもならない。変化の境界は言うまでもなく心得ている。

 石があればいつでも極集中に入れる。しかしとセラは考え込む。普段ヴェールを纏って現れる力以上のあの力。あれはその後試したが、集中では得られないものだとわかった。ネルにも意見を求めたが、あれは没頭の護り石がその力の全てを発揮し、自我を失った状態から運よく戻ったことで発現したのだろうと、セラも同意できる結論に至った。危険だから試すこともできないものだとも。

 ヨコズナ神が求めているのはあの力なのだろうと、思えてくる。極集中で引き出したヴェールだけでは足りないのだと。神の試練はまだまだ先か。いつの日か、他人事とも思えたあの力を、真の意味で自分のものにできる日は来るのだろうか。もしくは、そうするためにヨコズナのもとを訪ねるべきなのだろうか。

「セラ。帰って来て早々、なにぼーっとしてんだよ」

 セラはその声に思考から脱する。

 目の前には兄弟子と従者が立っていた。「エァンダ、ヅォイァさん」

 極集中に入る手前の集中は深いことには深いが、雑念がよく混じるのが難点と言えた。その浮かんだ物事に意識が逸れてしまうことも。いっそのこと極集中状態で気配を探るべきだったかもと、セラは内心苦笑した。

「ただいま」

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