表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

470/535

466:いつの日もある日の前日

「今日もヅォイァのおじさま、戻ってこなかったわね」

 酒を飲むセラとネル。ネルが開いた窓からもうじき満ちる月を見上げながら言った。

「うん。やっぱりわたしも行くべきだったかな」

 紫色の液体の入るグラスを回しながら呟き、肩を竦め微笑むセラ。

 トラセードを充分に使いこなせるようになったセラは、エァンダの言っていた通りスウィ・フォリクァに帰ってもよかったのだが、ネルの先祖返りの研究が終わるまではトラセークァスに留まることに決めていた。そのことをヅォイァに頼んで評議会に伝えに行ってもらったのだが、その彼が二日経ってなお戻ってきていないのだ。

 ナパードではないことを考えても時間がかかり過ぎている。セラの剣として追従することを選んでいる彼が何も言わずに彼女のもとから長いこと離れるとは考え辛いが、スウィ・フォリクァでゼィロスか誰かになにか指示を受けたのだろうか。それなら頷けなくもない。彼ほどの実力者が道中に災難に見舞われることもないだろう。

「そんな心配しなくても大丈夫だと思うんだけど、ごめんねネル。やっと研究が成功したのに。これもお祝いのお酒なのに」

「いいえ、わたしも心配だもの」肩をすくめてそういうと、転じてにっと得意気に、かつ冗談交じりに笑う。「こうなったら、ナパードで最初に跳ぶのはヅォイァおじさまのところね」

「その前にこの世界から出られるかでしょ?」

「ふふっ、そうね。楽しみだわ、ナパード」

 グラスを傾け、二人して酒を喉に通す。

「ほんと、おめでとう。ネル」

「ありがとう。セラ。でもちゃんと成功かどうかがわかるのは明日よ、明日。そう、明日ね……ふぅ、それにしても、これは運命のいたずらかしらね」

「え?」

 突然湿っぽい笑みを浮かべたネルに、セラは小首をかしげる。

「実はね、明日なの。お母様の命日」

クィフォ(うそ)……」

「そうよね、ほんとに驚くべきことよね。でも、お母様の命日ってことは、わたしの初めての研究が完成した日でもある。だから今回も必ず成功するわ」

 セラはどこか上の空で黙り込む。「……」

「……って、セラ聞いてますの?」

「え、ぁ、うん。聞いてる…………」

「なんですの?」とネルが訝る。

「明日が……」セラは確認するように問う。「ネルの誕生日ってことだよね?」

「そうですわね。そういうことにもなりますわ」

「ほんと、運命のいたずらなかな……」

「ええ、だからそう言って――」

「わたしも明日、誕生日なの」

「……? クィフォ(うそ)……」

「ほんとに」

「753年の159日生まれ?」

「そう! 753年の159日!」

 2人が誕生日を確かめ合うと、部屋に沈黙が訪れた。そのまま見つめ合うサファイアは徐々に興奮と喜びを帯びてゆき、先にネルが口を開いた。

「まぁ! そんなことってありえますのっ?」

「ほんとにね! でも、これもネルのお母さんのおかげじゃない?」

「圧縮した空間に何度も入った!」

「それでネルが普通より早く産まれた!」

 二人の姫はこの偶然の一致を大いに喜んだ。従者の安否や母の命日のことを一時だけ忘れて。

 そして、月に薄い雲がかかりはじめていることにも気づかずに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ