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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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464:認めざるを得ない

 朝食を終えたセラとネル、そしてヅォイァが城の前庭へ出ると、フュレイを含めた子どもたち七人が鬼ごっこをしていた。普通の、足だけを使った鬼ごっこだ。

 そのことが単純に気になったセラはネルに訊く。「トラセード使ってないんだね」

「フュレイがいるからですわ。あの子、空間伸縮ができないのよ」

「身体が弱いのが影響?」

「だと思いますわ」

「それも分かってないってことね」

「……むぅ。ほら、行きますよっ! もう鬼ごっこの訓練はしないんですから」

「あっ、ネル姉ちゃん! セラ姉ちゃん! ヅォイァのじっちゃんっ!」

 城の裏手へと足を向けようとしたネルを呼び止めるようなワンザの大声。次いで子どもたちがそれぞれに声を発しながら、セラたちの方へ駆けてくる。そうして七人で三人の大人を囲むと、「遊ぼうよ!」とヨムールとミキュアが声を揃えて言った。

「駄目よ、これからわたしたち訓練なんだから」

「そうよ……ってセラ、わたしの真似は似てないといったでしょうっ?」

「ごめんあそばせ。あなたが勝手になさってと言ったのよ? 子どもたちに見せることを」セラは尚もネルの真似を続けながら、視線でネルに子どもたちを見る様に示した。「それに、やっぱり似てるじゃない」

 子どもたちは揃って瞳を輝かせ、セラを羨望の眼差しで見上げていた。

「ネルお姉ちゃんが二人いるみたい……」とニフラ。

「そっくり……」とロォム。

「僕たちは?」「わたしたちは?」とヨムールとミキュア。

「わたしより、うまいわ……」とイツナ。

「英雄には物真似も必要なのか……」とワンザ。

 ネルは頬を引きつらせるが、口元はわずかににやけている。「認めざるを、得ないみたいですわね……」

「認めざるを得ないみたいよ?」

「もう、やめてください。ほら、今度こそ行きますよ! わたしたちにはやることがたくさんあるんですから。そういうことだから、みんな、今日はみんなだけで遊んでいてね」

 ネルはそう言い残し一人で先に歩き出した。

「セラの訓練に、先祖返りの研究に、それに、記憶の研究も、それにそれに、もっとセラとお話ししなくっちゃ、うふふっ」

 誰に言うわけでもなく独り言ちたようだが、セラには丸聞こえだったことは言うまでもない。今朝からの状況の変化に、相当浮かれているのが黄色いドレスの後ろ姿から窺えた。彼女のようにあからさまに外には出ないが、セラも同じ気持ちだった。自身の進歩、ネルの研究の進歩、ネルとの関係の深化。それらすべてがセラにとって悪いことなわけがないのだ。

 セラは自身の声色に戻し、子どもたちに言う。「いろいろ片付いたら、必ず遊んであげるから、ごめんねみんな」

「ヅォイァのじっちゃんもなの?」

「すまんな。今日はお預けだ」

「っちぇー。行こうぜ、みんな」

 ワンザを筆頭に離れて行く六人の子どもたち。フュレイが一人残り、セラに笑みを向けてきた。

「仲直り、できたんだね。よかった」

「うん」屈んで応えるセラ。「フュレイちゃんのおかげだよ」

「これで昔に戻す研究も進むね!」

「やってみないことにはわからないけど、そうなることを願ってて」

「ちょっと、なにをしていますの!」

「おい、フュレイ! 早く来いよー!」

 裏手からネル。前庭からワンザ。二つの声がそれぞれの友を呼んだ。

「それじゃ、またね」

「うん、またね」

 フュレイが先に子どもたちの方へと動き出した。その背を見送ると、ヅォイァを伴いセラはネルの待つ森の入口へ向かいはじめた。


 強情に夜の帳が降りた森の中。

 セラは一人森の中央に立つ。その首からはナパスの証である『記憶の羅針盤』に並んで、ガラスの小箱に入れられた、吸い込まれそうに真っ青な石が下げられている。今しがたネルに渡され、掛けたものだ。

 没頭の護り石。

 装着した者に深い集中を与える護り石の一種だとネルは言った。それは寝食はおろか自我を忘れてしまうほどのもので危険な護り石とされているのだが、ネルが開発した『軟弱ガラス』で囲むことでその力を抑えているのだとも。

 事実、身に付けたセラは深い集中状態を得ていた。

 なんてことはなく、碧きヴェールを纏えてしまうほどに。

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