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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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466/535

462:朝ご飯を食べに行きましょう!

 薫風が躍る時間が続いた。

 それから。

「こうしてわたしはお母様の活動を引き継ぎました。お母様の愛したこの異空に脈々と受け継がれる伝統、技術、文化、環境……他にも、全てのものを守ると」

 ネルは信念に満ちた瞳をセラに向けてきた。セラは逸らすことなく、応えるように見つめ返す。

「だから……そして、あなたに協力をしてもらいたい。あなたとなら、一緒に、歩いて行けると思うから!」

 セラはその宣言に目を小さく瞠った。そしてようやくその時がきたかと快く返事をしようとした。

 だが、ネルが大きく頭を振ってゴールドを暴れさせたことで、一瞬止まる。

「……ネル?」

「っ、ごめんなんさい、違うの」

「え……?」

「いや、そうではなくて……その……」

 もじもじとらしくないネルに、セラは戸惑い首を傾げる。「?」

 するとネルはドレスのスカートを両手で強く握った。そしてその頬をわずかに赤らめながら盛大にセラを歓喜させる言葉を口にする。

「セラ! わたしたち、お友達になれるかしらっ?」

 顔がほころんでゆくセラ。口よりも先に身体全体が、答えを出した。それこそナパードもトラセードもなく、セラはネルとの距離を無いものにした。

「もちろんっ!!」

 抱擁。プラチナとゴールドが溶け合う。

 ネルの腕が、ゆっくりと、セラの背に回る。「ありが、とう……セラ…………」

「!」

 今ネルが口にした言葉。それはセラが優しく扉を閉めたあの日、ネルがぼそりと口にした言葉だった。あのときも「ありがとう、セラ」と言っていた。初めて名前を呼ばれたことを茶化そうかとしたが、やめたあの時の言葉だ。

 直接顔を見て言ってもらうことが最終到達点だと思っていたセラだったが、違うなと改める。今が顔の見えていない抱擁の状態だということも、それはそれでうれしいからということもあるが、なにより、最終到達点ではなく、原点なのだと。ここからはじまるのだと。

「うん。どういたしまして、ネル」

 ネルにとって原点ともいえる黄色い空間に、また新たなはじまりが加えられた。

「本当に? 今まで、あんな態度だったのに? 嘘じゃない? ねぇ、ほんとの本当に――」

 セラはおかしくなって笑いながらネルとの抱擁をやめる。「ネル、しつこいよ」

「……ごめんなさい、こういうの、初めてで。同じ年頃のお友達なんて」

「もう、らしくないよ? わたしよりネルこそさ、お母さんとの約束だからって無理やり友達になろうとしてないよね?」

「それはっ!……ない……わけではないです、わね」

「え、そうなの? ちょっと傷つくんだけど。今までの態度より、傷ついたかも」

「……ごめん」

 あからさまにしょんぼりとするネルにセラは笑いながら諌める。「もうっ、だからネルらしくないって、そういうの。今まで通り……の態度じゃさすがにいいわけないけど、変に改まって気を遣ったりしないでいいんだからね? お母さんも言ってたんでしょ、本気で言い合いができたり、笑いあったり泣きあったりする友達を作りなさいって」

「そう、ですわね」ふっとけろりとしてみせるネル。「それじゃあ、セラ。朝ご飯を食べに行きましょうか」

「うん、そうだね」

 二人は並んで歩いて、保管庫、ネルの部屋をあとにした。そのまま廊下を行く二人の背中を、ネルの部屋の扉はどうとも思うことなく、見送ったことだろう。

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