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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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444:自信の出どころ

「ほんとにオーウィン使っていいの?」

「構いませんわ。昨日も話しましたが、わたしはあなたより強いですので」

 おなじみの夜の森。プラチナとゴールドがサファイアを向かい合わせる。

 セラよりも強いと豪語するネルだが、闘気は鎮める云々以前に戦いに身を置く者のそれではない。武器や防具といったものも一切身に付けておらず、服装も淡い黄色のドレスのままだ。雲海織りならともかく、彼女のドレスはそうではない。いたって普通の生地に見える。コルセットの宝石には『夜霧』の指輪のような、物を出し入れする力があるようだが、あそこから武器でも出すのだろうか。ここ数日でセラの知らない技術や知識をひけらかした彼女のことだ、ここでもまたセラの知らない技術を披露する可能性は大いにあり得る。

 そんなことを考えながら、セラはフクロウの身体を露わにする。赤白い灯がちろりと反射する。

「ヅォイァさん」セラはいつも通り傍らの切り株に座る従者に声をかける。「危なそうだったら、止めてください」

「承知した」

「しなくて結構ですよ、ヅォイァのおじさま」ネルが勝気に口角を上げる。「わたしに刃は届きませんから」

「どこからそんな自信が?……まあいいや、はじめ――」

 オーウィンを構えたところでセラは一つ思いついたことを口にする。

「――もしかしてずっとトラセードで逃げ回るとかじゃないよね?」

「あら? 憎たらしくもエァンが認めるようなお人が、戦士でもないわたしを追えないと?」

「違う。もしそうだったなら意味ないから、ヅォイァさんと組手しようかと思って。極集中とは別に」

「そう。でも安心なさい? わたしはちゃんと戦うわ」

「わかった。安心した」このままでは強いのどうのと問答を繰り返すだけだ。「はじめよう」

「なんですのその素っ気ない態度は! あなたこそ、戦士相手じゃないからといって手でも抜いてみなさい。痛い目見ますわよ?」

「ネルが怪我しないくらいには、手加減するから。それはいいよね?」

「ご自由に。すぐ撤回なさると思いますけど」

「はいはい。じゃあ、いくよ」

「ええ」

 ネルが頷いたのを見て、セラは目の前の空間を圧縮した。そして駿馬で入り込む。回転を加えて。

 黄金の背後。

 ナパードで背後を取るのに比べて、静かとは言い難い。それでも空間伸縮の、移動の過程を飛ばしたようなその独特な動きは、大抵の者にとって未知のもの。大きく優位に立つことができるだろう。

 しかしトラセスの姫はその限りではない。

 サファイアが見つめ合う。

 ただそれだけだ。

 ネルは反応こそして振り返ったが、セラに対して反撃や防御の姿勢を見せることはなかった。

 ここまで来たら躊躇わない。構わずセラは剣を振るう。

 ッキーン――!

「!」

「撤回、なさりますよね?」

 六角形が連なってできた半透明な壁の向こう、ネルが不敵に笑んだ。

 セラは納得し、好戦的に笑む。「護り石」

 ネルから距離を取るセラ。ネルの前から壁が消える。

 トラセスの姫の自信は護り石からくるもの。どうやらコルセットの宝石の中に護り石を加工したものが含まれているらしい。

「やはり知っていますのね。クェト様にお会いになっただけはありますわ」

「クェト博士が今も生きてるのも、護り石のおかげだってわかってたんだ」

「当然。あの方は護り石の原産地ゥワークュイの王族で偉大な研究者ですもの。石の中に周囲の時の濃度を薄める効力を持つものがあることは、誰かに教えられることなく知っていてあたりまえですわ」

「なるほどね」

「拒絶の護り石が一つあれば、どんな屈強な戦士の一撃もわたしには届きませんわ」

「それってほんとなの? その護り石の壁を破る方法はないの?」

「……」セラの問いにネルは不自然な間を置いて、目を逸らしながら答える。「さて、どうでしょう?」

「あるんだね」

「お、教えませんわよ! ご自分で考えなさいねっ!」

「わかった、わかった。とりあえず、今はトラセードの戦闘訓練しよう。ね」

「……わかっていますっ!」

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