表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

444/535

440:固定概念の崩壊

「やりぃ! 鬼ごっこなら『碧き舞い花』にも勝てる!」

「また、鬼か……」ワンザにタッチされたセラは大きく息を吐いた。「でも、今に見ててワンザ、みんなも。もうすぐ捕まらなくなるから」

「その前に、誰かを捕まえないとだよ」

 ミキュアが遠くで朗らかに言う。

「んー、じゃあ、次はミキュアかなっ」

「ぅえっ!? またぁ!?」

 早速、ミキュアの後ろに回り込んだセラ。そっと彼女の両肩に手を置く。

「なんで後ろなの!?」

 戦いに精通していないトラセスの子どもには、今日のセラの空間縮小は見たことのない、ありえないものに映ったことだろう。彼らの行なう連続したトラセードではない、にも関わらずセラは一回のトラセードでは不可能な回り込みするのだから。

 種明かしをすれば、セラは圧縮した空間に回転しながら駿馬で入っているのだ。トラセードにより一気に移動してしまうことを除けば、普段戦闘で行っている水馬を真似た、駿馬とステップによる急旋回だ。

 昨夜、与えられた部屋で、子どもたちのように連続してトラセードを使えるのかを試してみたセラだったが、使うことはできなかった。そこで思いついたのがこの方法だった。水馬もヒィズルの人間でなければできないものだったが、それをセラなりに再現した。今回もそれだ。

「はい、ミキュアが鬼ね」

「むむぅ……」

 判然とせず頬を膨らませるミキュアから、セラは駆け足で離れて行く。トラセードに伴った駿馬は使うが、それ以外では昨日同様に感覚を鋭くするだけにとどめている。

 だから背後で小さく呟いたミキュアの声など鮮明に聞き取れていた。

「お返しっ」

 短い言葉に合わせるようにトラセードでセラの背後に迫った彼女。その手がセラの背に伸びる。

 が。

 届かない。

 緩やかなる時の流れ。束の間、戻る。

 セラはミキュアから大きく離れた、広場の際まで移動していた。

 少し離れすぎた。セラは冷静に分析した。圧縮と拡大は同じトラセードでも使用感にずれがある。ネルが両方の感覚を掴めなければ戦闘訓練は早いと言ったことが頷ける。

「遠くに逃げたって意味ないよ」

 諦めずにミキュアが迫っていた。連続して空間を操れるのは彼女たちの強みだ。

 圧縮での高速移動に駿馬と回転を合わせたことで直線移動の制約は突破できたが、拡大に関してはその限りではない。圧縮した空間に足を踏み入れるのと、自身を含めた空間を拡大するのでは違うのだ。移動の合間に入れるのと、移動そのものとして使うのでは。

 ふと、思考に引っかかりを覚えてセラは動きを止めた。それを見逃さず、ミキュアは易々と彼女の背に触れた。

「はい、タッチ! お返し成功!」

 きゃっきゃしながらセラから離れるミキュア。それを耳にしながらもセラは未だ動こうとしない。

 移動の合間に入れて使う圧縮。移動そのものとして使う拡大。

 エァンダと共にトラセードを体感した時。兄弟子は回避として空間の拡大を行った。反対に圧縮を用いて高速移動を行っていた。

 距離を詰めるのに空間の圧縮しか使わなかった昨日の鬼ごっこ。今日は拡大の距離感を掴むために逃げる方の練習をしている。

 兄弟子の姿や今自分が励んでいること、それらはそれでいいのだとセラは心中で頷く。拡大と縮小。両方を使いこなせればトラセードを習得したことにはならないのだから。

 しかし。

 セラの中で一つの固定概念が壊れた。

 試してみよう。

 セラはようやく動き出し、停止したままの彼女に対して訝しんだ表情を見せている子どもたちを順繰りに見ていく。

 誰を狙ってもよかった。今は自分の考えを試したいだけだ。

 とりあえずと、最後に目を向けたイツナに標準を定めた。

 そしてセラは空間を、拡大した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ