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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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438:鬼ごっこ

「ただの鬼ごっこでは、当然あなたが独り勝ちですわよね。ですので、空間伸縮を使ってみんなと鬼ごっこしてもらいますわ」

 子どもたちとトラセードを使った鬼ごっこ。それがネルがセラに課した鍛錬だった。

「みんなも空間伸縮使っていいからね。……そうね、最初の鬼はヨムールでいいかしら。さっきの続きってことで」

「いいよ」

 ヨムールが元気に返事をすると、他の子どもたちは一斉にその場からは離れだす。それ見てからヨムールが数を数えだす。

()(ペェ)(ビュソ)(クゥラ)……」

「ほら、あなたも逃げはじめないと。すぐタッチされちゃいますわよ?」

 秒読みの最中、ネルはヅォイァのいる切り株の方へと歩いて行きながら言う。どうやら彼女は鬼ごっこに参加しないようだ。

 異世界の道具のときとは違い、ネルの説明は短く物足りないものだった。だが、ここまで来ればセラにも理解できた。

 子どもたちとの遊びの中で、空間伸縮に対する距離感を掴むところからはじめるということだろう。それがネルの言うちょうどいい、なのだと。

「……()(キィン)(ゼムゥ)……」

 十秒でヨムールは動き出すのだろう。セラは大人げないと言われないように、自らの感覚を抑制する。いくら子どもたちもトラセードを使うからといっても、先読みしてしまっては楽々と躱せてしまうし、タッチできてしまうだろう。そうなれば子どもたちの心証も悪くなるうえに、自分自身のトラセードの練習のためにもならない。今、鋭い感覚は妨げになる。

 ヨムールから目を離さないよう、後退しつつ秒読みを聞く。

「……()(ヲル)10(トピュロ)!」

 秒読みが終わった。

 さあ、どう動く。セラがヨムールの動向を気にかけると、彼はセラの方へと動く素振りを見せた。早速、新たな友人を標的にしたらしい。

 彼の最初の一歩目。それは子どものそれではなかった。たった一歩で、彼はセラとの間合いを一気に詰めたのだ。

 子どもでもトラセスの民だ。

 その空間伸縮の手際はセラよりも鮮やかで、戸惑うことなくしっかりと、空間を必要なだけ縮めて踏み込んできた。

 咄嗟のことに、セラは感覚に鋭利さを呼び戻してしまった。伸びてきた彼の手をまるで敵の刃のように隙なく躱した。そして、しまったと思った。大人げないことをと。それに躱すならばトラセードで距離を取らなければ鍛錬の意味がない。今からでも遅くないか。

 セラはヨムールとの距離を離そうと、自分を含んだ自身と彼との間の空間を引き延ばしにかかる。時が流れを緩める。

 ゆっくりにはなったが、止まることはなく元に戻った。

 トラセード自体は成功。だが、ヅォイァとの鍛錬の時のように、どれほど空間に変化を与えればどれほどの距離移動するのかはわからないままだった。

 わずかしか後退しなかったセラに、子どもは容赦なく追撃を決め込んだ。

 鬼はセラに代わった。


 ナパードを使いたい。駿馬でもいい。

 生来の負けず嫌いは子ども相手でも変わらず、次第にセラから大人の余裕を奪い去っていった。かといって憎々し気な顔をするわけではなく、逆に童心に返った様子でただただ純粋に鬼ごっこを楽しんでいる。

 どうにかして誰かをタッチする。でもナパードや駿馬は使えない。使いたいけど、使えない。それはずっと鬼であるということ以上に負けなのだと、彼女は考えているからだ。

 超感覚も気読術も全開にしていることは棚に上げている。割り切っていると言った方がいいか。トラセスの子どもたちは、ことトラセードに関していえばセラよりも大人だ。だから、むしろそれくらいは許されるだろうと長く鬼を演じる中で彼女の考え方は変っていた。

 なにせ、彼らは連続して空間の伸縮を行うのだ。一度の空間伸縮では一方向への拡大縮小しかできないのだが、彼らは繰り返すことで、後退してすぐに横に逸れることができる。ただ追っているだけでは到底触れることなどできない。

 しかし感覚を研ぎ澄ませようが、セラは未だに鬼だ。

 原因はトラセードによる移動距離を測り切れていないことにあった。

 それでもトラセードを行う際の子どもたちの動き、生命(いのち)の波の動きを感じ取ることで徐々に掴みはじめてはいた。お得意の物真似の延長。彼らを真似ることで自分のものにしていく。

 六つの手本はそれぞれに個性的で、誰一人として同じようにトラセードをしない。まだネルと鍛錬をしてはいないが、それは恐らくネル一人を相手にしていては気付けないことだっただろう。

 一人一人が違う中で、同じように空間伸縮で移動している。このことを知れたことは、セラにとって幸運だった。

 六人それぞれを真似してみて、自分のトラセードの具合を刻みながら調節できたのだから。

 そしてついに。

「っあ!」

「やった!」

 セラはワンザ少年をタッチした。

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