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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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437:賑わう夜の森

 ロォムの誕生日パーティの翌日。

 まるでパーティの続きと言わんばかりの賑やかさが、夜を偽る森の中にあった。

「ちょっとみんな! 普通に遊ぶ時間じゃないのよ!」

 六人の子どもたちはランタンに灯される広場を駆けまわり、鬼ごっこに熱中していてネルの言葉は全く届いていない。

「まったく……」

 ネルはやれやれと肩をすくめると、コルセットに縫い付けられた宝石の一つに手をかざした。すると宝石が瞬き、彼女の指先に呼び笛がつままれていた。

 フィィィィィィィッィ――!

 ネルが笛を吹くと身体を突き抜けるような、攻撃的な高音が広場に放たれた。ほぼ隣りで聴いたセラはもちろん、離れた切り株に腰掛けるヅォイァも突然の音に肩をすぼめた。当然、子どもたちもとセラが彼らに目を向けると、セラたちとは違った反応を示していた。

 瞬きもせず、棒立ち。

 子どもたちは微動だにせず、立ち止まっていた。

 ネルが笛を口から離しながら得意気に言う。「これはね、ダスケスィ・オラツにいるカンカンカナリアが雛たちを怒る時の鳴き声を再現しつつ、人間仕様に変えた呼び笛なのよ。ちょっといじれば大人だって硬直させられるんだから」

「そうなんだ……それで、みんなは大丈夫なの?」

 あまりにも動かない子どもたちの姿にセラは心配になって苦笑ぎみに尋ねた。気配や生体の音を聞く限りは命に別状はなさそうだが。

 ネルはふふんと笑って、笛を咥える。「ひてなさい」

 見てなさい。そう言うと、フィッ、フィッ、フィィィ、フィッと小気味いいリズムで笛を吹いたネル。途端、不自然に規則正しい動きで、子どもたちがセラとネルの前に横一列に並んだ。そして、ふっと力が抜けたように自然さを取り戻した。

 ワンザがすぐさま吠える。「その笛ずるいぞ、ネル姉ちゃん!」

 呼び笛を宝石にかざし、消しながらネルは勝ち誇ったように言う。「言うことを聞かないから悪いのよ」

「「ごめんなさい」」

 ニフラとロォムが声を合わせてしょんぼりとする。

 それを余所にイツナがネルをムッと可愛らしく睨む。「わたしもワンザに賛成! その笛は酷いわ、ネルお姉ちゃん。卑怯よ!」

「卑怯はみんなよ。わたしはこの人の空間伸縮の練習の手伝いをするなら、一緒に行きましょうと言ったのよ? その約束を守らないのは卑怯じゃないの?」

 そう。新たな友人であるセラに会うために城を訪ねてきた子どもたちに、セラはトラセードの鍛錬があるからと謝ろうとした。だが、先生であるネルが彼らの参加を許したのだ。ちょうどいいわ、と。

「……」

「おい、言い返せよイツナ」

「そ、そんなこと言うならワンザこそ!」

「え、ああ……っと」

「ねえねえ、あたし鬼ごっこしたいんだけど」

「僕も、続きしたい。せっかくもう少しでイツナをタッチできたのに!」

 ミキュアとヨムールはせかせかとすぐにでも鬼ごっこを再開させい様子だ。

「続きはちゃんとやらせてあげるわ。この人と一緒にね」

「わたしと? ちょっと待ってよ、ネル。それじゃトラセードの鍛錬ができないじゃん」

「そんなことなくってよ?」

 ヅォイァが遠く、一人呟いた声がセラの耳に入る。「なるほどな」

 それでもセラにはネルの言うことが腑に落ちなかった。一体ネルはどうしたいのだろう、なにがちょうどいいのだろう、と。

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