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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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434:糸

 自分次第でいつでも発現できる力。

 その確信が持てた。自覚して発現できるのだ。

 当然、まだすんなりとは言えない。それに長いこと保つことも身に付けなければいけない。最終的には自在に発現させる域に到達しなければ。

 そこからが本番とも言えた。

 今度こそは神が言っていたように、試練を求めて神前に立つことができる。

 武神ヨコズナの試練。

 恐らくは極集中の鍛錬ではないはずだ。エァンダの口にした言葉。捲し立てられた勢いに聞き返すことはできなかったが、彼は「別のも引き出している」と言っていた。

 リーラ神が懐かしくも厭わしいと言った力。先祖返りで目覚めた力。

 ただ不思議と力が湧くだけではない、なにかが自分の中に眠っている。

「双子……」

 リーラ神の言葉を思い返して、気になる単語をセラは独り呟いた。ヅォイアは「ん?」と訝しんだが、セラは気に留めつつも集中していた。

 彼女の中に眠っているだろうと思われる力を知る者として、リーラが神々と共に挙げた「あの双子」という言葉。尋ね返したが答えを知る機会は戦闘の忙しさに失われたのだ。

『……よくよく見れば若き日のフ――』

「フ……」彼女の頭の中、記憶が巡る。行きついた名があった。「フェル」

 ヨコズナ神が口にした名前。確証はないが、二柱の神が同一の人物の名を口にすることは可能性としてありえる。途端、なにかが彼女の頭の中で繋がりはじめた。なにかが、一本の糸になろうとしている。それなのにクモの糸のように見えずらく、判然としない。

「ジルェアス嬢。なにを考えている?」

 ヅォイァの声が近かった。気付けば、彼は彼女の身体を支えるように寄り添い、悪夢にうなされた子どもに接する父親のように優しい目で彼女を見ていた。

「……ちょっと、この力について」

 どこかぼんやりとしながらセラは応えた。視界からヴェールは消えている。

「そうか。かなりの集中だったが、むしろそれが極集中を邪魔したようだな」

 セラはヅォイァにもう大丈夫と、一人で立った。「かなりの集中なのに?」

「ああ。極集中は視野を狭くする集中ではない。感覚も鋭くなるだろう?」

「そういえば、そうだね」

 これまでの戦いでもヴェールを纏っている時は超感覚や気読術は強く意識した時のように研ぎ澄まされていた。

「ちゃんと入れたことにいろいろ考えたのだろうが、最初にしてはまずまずの成果だろう。宿敵を前にした戦闘ならこれまで同様に咄嗟に入れることもあるだろうが、ここからだな」

「はい。じゃあ、もう一度やってみます」

「そうだな。忘れぬうちにもう一度入ってみろ」


 ところがその日、セラに二度目はなかった。

 広場の外が昼過ぎになり、ハンサンが二人を訪ねてくるまで続けたが、どうにも最初の集中のときに思い浮かんだ思考の糸を無意識に追ってしまう。そうして追っているうちに、糸で集中ががんじがらめになってしまうのだ。

「このあと城下町の子の誕生日パーティがあるのですが、ご一緒にどうですか?」

 鍛錬を中断へと導いたハンサンの申し出に、セラはまたとない機会だと笑顔で快諾した。ヅォイァも気分転換も重要だと頷き、二人は執事と共に森をあとにした。

 そうしてセラとヅォイァはそれぞれ汗や汚れを流し、軽く身支度をすると、ハンサンに連れられて城下に足を運ぶ。

 大した距離はない。前庭を抜け、門を抜ければ町が覗ける。ゆるやかな曲線を描く道を進めば、村の入り口に到達だ。

 家々が円状に並び、中央の花壇を囲む町。家は数えるほどしか建っておらず、町というよりは集落に近かったが、全体にパーティの装飾が施され、町が一体となってお祝いの雰囲気だ。

 入り口で町を一見したヅォイァがハンサンに尋ねる。「この世界には、これしか?」

「デルセスタの人から見れば、確かにありえない光景でしょうね。ですが、この世界には王家とその従者、そしてこの町の住人しかおりません」

「エレ・ナパスより家族同然」セラはネルの言葉を思い出す。「大切な家族か」

「ええ。ネルお嬢様は幼き日に母君を亡くされておりますからね。城下の皆さまに育てられたと言っても過言ではありません。もちろん、私や王が何もしなかったわけではないですがね。それが一層家族というものへの想いを強くしているのでしょう」

 自身の幼き日の記憶と重ね、セラは小さく微笑んだ。「そっか」

「ハンサン殿」ヅォイァは声を顰める。「聞き辛いことではあるのだが、これで長い時代、一族を絶たずに?」

「……」その問いに、ハンサンはどこか空虚な表情をした。しかし一瞬で、すぐに柔和に笑む。「ええ、もちろん。多夫多妻なんですよ、この地は。まあそれでも私が幼き頃はもっと多かったんですがね、人も町も」

「そうか。ではこのままでは……」

「そうですね、悲しいですがお嬢様の次代くらいまで……」

「すまん。祝いの席だな。やめよう」

「いえいえ、現実なので」

「老いぼれると自分ではなく一族の存命を考えてしまう」

「お互い歳は取りたくないものですね」

 2人の老人の会話を傍から見聞きしていたセラは、会話に混じれず苦笑するばかりだった。

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