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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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437/535

433:フクロウが二羽

 赤白い(ともしび)が静かに見届ける。

「これまでヴェールが発現した時のこと、勇気を与えられたときのこと、憎き仇敵の顔でもいい。なにかを思い浮かべて、感情を揺さぶるんだ」

「……」

 夜の広場に立ち尽くし、セラは目を閉じ、自身を中心に周回する師であり従者である老人の言葉に耳を傾ける。

「……これって」目を瞑りながら口を開くセラ。「瞑想と変わらないんじゃない?」

「つべこべ言わず、思い浮かべるんだ」

 ヅォイァは歩き回る。

「ジルェアス嬢の場合、『夜霧』が関わっている方がいいかもしれんな。ヌロゥ・オキャ。直近で刃を交えたあの義眼の男を頭の中に描いてみろ」

 くすんだ緑色の髪、瞳。細く背の高い男。二度、刃を交えた敵。

 一度目は全く歯が立たなかった。二度目は対等に渡り合えていた。あの万華鏡の義眼が露わになるまでは。二度とも最後まで戦うことなく、中断されているが、勝ちの未来はどちらにもなかっただろう。

 次、相見えたとき、自分は勝つことができるのだろうか。セラは心の内で首を横に振る。違う、勝たないといけない。そのためには、極集中もトラセードも、場合によってはまだ見ぬ力すらもものにしなければならない。

 思い浮かべたヌロゥの横に、別の人影が現れた。

 桃色と朱色が交互に入った長い髪。燃えるように揺らぐ赤色のまなこ。求血姫ルルフォーラ・エドゥツァ・テナン。

 まともに戦ったのはヒィズルでのみ。ヌロゥに比べれば戦闘能力は劣るものの、血から得たあらゆる能力や血を流す程に向上する身体機能は厄介に相違ない。さらに言えばその能力は他者へも及ぶ。

 セラ以上に異空のあらゆる能力を得ていると考えても過剰でない。戦力だけ持って挑んでも彼女には敵わないだろう。対抗するには今以上の知識を身に付けなければならないだろう。

 二人の背後に大きな人影が浮かび上がる。

 徐々に明確になった人影は、あの男だ。

 赤褐色の髪と瞳の大男。ガフドロ・バギィズド。誰よりも討ちたい、敵。あの日以来、その姿を(じか)に目にしたのは夢の中だけ。現在の容姿があの時と変化したかどうかさえわからない。戦士として相見えていない以上、実力差も定かではない。それでも、なにがなんでも、あの男だけはこの手で討つ。

 ふと、思い浮かべた三人の背後から闇夜が膨れ()でる。

 仮面のナパスを携えた暗黒の靄。

 裏切りのナパス、フェース。そして『夜霧』の統率者『白昼に訪れし闇夜』、ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン。

 自らの想像世界の中、そして現実でも唇を強く結ぶセラ。思い返したいま、恐怖がないと言えば嘘になる。あのときはやはりエァンダの存在が大きかった。その上、あの時のヴェィルは万全ではなかったのだと、フェースの口ぶりが語っていた。全ての元凶として、いつの日か向かっていかなければならないだろう。

 思考の連鎖のすえ現れた彼らが闇に包まれた。そのままぶわっと嵐になってセラをも奪いにかかる。

 想像の中ではあるが、オーウィンを構えるセラ。それを合図に、彼女の背後が連続して閃く。

 黄色。

 赤紫。

 群青。

 紅。

 そして彼女の両脇から闇の嵐に差し向けられる四本の剣。

 ハヤブサの剣。

 カラスの黒剣。

 ワシの大剣。

 そして、フクロウの剣。

 フクロウが二羽。

 横目で見ることもなく、セラは並ぶナパスの戦士を感じる。さらには背後にも、七色の戦士たちを感じていた。なんとも心強い。

 やがて光は大きく煌めき、闇の嵐を打ち払う。

 カッと瞳を開くセラ。

 剣を鏡にしサファイアを確認する必要はなかった。身体に纏わる碧きヴェールが視界に入っている。

 知っている、感じ。この感じだ。

 セラはヅォイァに目を向ける。彼も彼女の目をしっかりと見つめ頷いた。

 ヅォイァに頷き返しながら、意識しても消えないことを確認する。

 戦いではない状況でこの状態になるのは初めてのこと。そのことが意味するのは、状況を問わずにヴェールは纏えるということだ。

 あとは自分次第。

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