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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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430:主と従者

「さて、お話はここまで。さっそく実践といきましょうか」

「さっそくって、まだ使い方の説明してもらってないけど……?」

「説明なんていらないわ。認めたくないですけど、あなたたちにはそもそも備わってる力ですもの。呼吸のようにね。ただ、眠っているだけ」

「眠ってる……」

「さあ、あなたはどれくらいで起きるかしらね」

 ネルがセラの肩に手を置いた。


 あっけなく。

 トラセード習得にセラ自身の努力は必要なかった。かといってネルの努力も必要なかった。

 ネルがセラを伴い空間の拡大と縮小を行うというのが、ナパスの民の中に眠る能力の覚醒の手段であったのだが、セラは両手の指を折り終わる前にはトラセードの感覚をものにしたのだった。

 彼女の持ち前の飲み込みの良さにはネルも驚きを隠せなかったようだった。しかしそこで正直に褒めればよいものを、トラセスの姫はセラがすでに使えていたのではないかと疑いの目を向けた。だがそれも一瞬のことで、彼女はまあいいわと笑う。

「あなたと関わる時間が減ったわけだしね。この先もすぐ終わってくれることを願うわ」

「この先?」

「エァンがわたしに頼んだのは、あなたの空間伸縮の力を起こすことじゃなくってよ。ここからが本番。あなたにはしっかり使いこなしてもらうわよ。渡界術のようにね」

「ちゃんと戦いで使えるようになるまで、か。確かにエァンダもそう言ってた。じゃあ、ここからはハンサンさんが?」

「っ! あなたは、またそうやって!」

「え、だってネル、戦えそうにないし」

「失礼ね、戦えますわよ。言いましたわよね、徹底的にたたき込むと。それにエァンが頼んだのは」

「はいはい、エァンダが頼んだのはネルだもんね。わかりました、先生。これからもよろしくお願いします」

「ふん」ネルは城へと続く道へと歩み出した。「今日はここまでですわよ」

「え、怒った?」

「違います。最初から今日はあなたが空間伸縮を使えるようになるためのことしかしないと決めておりましたのよ。ほら来なさい、仕方なくあなたと従者さんのために用意した部屋へ案内しますから」

「あ、待ってネル」

 セラの呼びかけに歩き出そうとした足を止めるネル。「なんですの?」

「今日はもうトラセードの鍛錬しないなら、わたしヅォイァさんと極集中の鍛錬をしたいんだけど」

「あっそ、ご勝手にどうぞ」プイっと踵を返し去ってゆくネル。「くれぐれも、次の練習に支障のないようにお願いいたしますわよ」

「ネルお嬢様」ハンサンが去ってゆく主に声を張る。「私がお二人をお部屋へ連れていきますから」

「そうね、そうして」

 最後のネルの声はまるで隣にいる人に発しているような音量だった。しかし、セラにはもちろん、ヅォイァとハンサンにもしっかり届いていた。従者であるハンサンの実力をよく知っての、発声だったのだろう。

「ではそういうことなので、私はここでお二人の見学をさせていただきます」

「なんなら、ハンサン殿も参加しますか?」ヅォイァが立ち上がりながら尋ねる。「あなたが優れた武人だということは戦うまでもなくわかる。ジルェアス嬢にとってもいい経験になる」

「『碧き舞い花』と一戦交えることができるとは、光栄なことでしょう。その鍛錬のお手伝いができることも。ですが今日はやめておきますよ。またの機会にしておきます。そのときはお願いしますね、セラフィさん」

「はい。わたしもハンサンさんと手合せしてみたいので、お願いします。ところで、わたしが『碧き舞い花』って呼ばれてること知ってるんですか?」

「それはもちろん、行く先々の世界でご活躍を耳にしますよ」

「行く先々? てっきりトラセスの人たちは外の世界に出ないのかと思ってました」

「大抵はそうですが、出ないということはありませんよ。さすがにね。それに加えて私の場合は少々特殊でしてね。お嬢様のために外の世界の珍しいものを蒐集しているんですよ」

「自分では行かないの?」

「愛されていますのでね、ネルお嬢様は」

「世界に愛されし者。そもそもトラセスの民の考え方だもんね。あ、だからナパスの民を目の仇みたいに?」

「それもありますね」

「それも?」

「ええ、お嬢様が一番気にしておりますのは同じ遊界人を祖に持つナパスと我々、トラセスでしたな。その二つの一族の間に優劣があることなんですよ」

「わたしたちにはナパードとトラセードが使えるのに、あなたたちにはナパードができない……」

「セラフィさんが気に病むことはありませんよ。そういうものですからね。それにお嬢様はそれを覆そうと研究に励んでおりますから」

「研究?」

「はい。い――」

「んん゛っ。話はあとでゆっくりすればいいだろう、ジルェアス嬢。今は鍛錬だ」

「あ、うん。じゃあ、また今度聞かせてくださいハンサンさん」

「ええ。こちらこそ、足止めしてしまって申し訳ない」

 ハンサンの柔和な笑顔により会話は終止符を打たれた。セラとヅォイァは赤白い光に包まれる夜の森でそれぞれの武器を構え合う。

「本気だぞ」

「わかってます」

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