表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

432/535

428:仲良くなれますよ、きっと。

「ネルお嬢様!」

 手をはたかれ呆気に取られているセラを余所に、老人が彼女を咎める。

「だって! この子、わたしじゃなくハンサンが先生だと思ってたのよ? これくらい当然の報いよ」

「セラフィさんは知らなかったんですよ。それをお嬢様ときたら、子供じみたことを」

「なによ。若い女の手を握れてさぞ嬉しかったことでしょうね」

「そんなことはありません」

「あるわ」

「あーはいはい、そう怒るなよネル」エァンダがポンポンとネルの頭を叩く。「教えてくれるって約束しただろ?」

「もちろん、エァンの頼みだもの。ちゃんとやるわ。この子がちゃんと覚えるかどうかは、知らないけどね」

「セラなら問題ない」

「む」ネルはセラをキッと睨んだ。「あなた、エァンのなんなの!」

「……え?」

 手をはたかれたのなんてキノセ以来だ、そんなことを想いながら手を見つめていたセラ。ネルの問いに首を傾げながら返す。

「妹弟子、だけど」

「そんなの! もうエァンから聞いてるわ! そういうこと言ってるんじゃないの!」

「えっと、じゃあ……なに?」

「知らないっ!」ネルはふいっとそっぽを向き、その場から離れはじめる。「来なさい。このわたしが直々に教えてあげるんだから、早くなさい」

「……」

 セラは老人二人、そして兄弟子に目を向ける。

「そういうことだ、セラ」エァンダが口を開く。「ネルが教えてくれる。トラセードをちゃんと戦闘で使えるようになるまで、ここで修行していけ。ただ使えるだけじゃ駄目なのはお前が一番よくわかってるだろ。あの靄も部隊長も生半可な技術じゃ通用しない」

「うん、言われなくてもわかってるよ」

「極集中の方はそう簡単に身につかないだろうからさ、そっちはそこそこでもいい。その辺の判断はおじさんに任せるよ」

「もちろん、承ろう」

「ちょっと! 何をしているの! 行くわよ! それともナパスのお姫様は歩かないのかしら?」

 城の裏手に回ろうとしたところで、ネルが腕を組んで大声を上げた。

「姫ってことも話したの?」

「少しでも共通点があった方が仲良くやってくれると思ったんだけどな。逆効果っぽいな。悪い」

「申し訳ありませんね、セラフィさん」ハンサンが頭を下げた。「どうか、ネルお嬢様をお許しください」

「いえ、大丈夫です。仲良くなれますよ、きっと。こういうのはじめてじゃないですし」

「私の主より大人でいらっしゃる。場数の差ですかな」

「やめてください。わたしなんてまだまだ子供ですよ」

「ちょっと! 教わる気あるわけ?」

 ぷんすかと足を踏み鳴らし、ネルが吠える。

「じゃ、俺は王様連れて帰るから。頑張れよ、いろいろと」

「うん、ありがと」

 エァンダは群青を散らした。一度城の中に気配が移動し、そして、トラセークァスから完全に気配を消した。


 城の壁に背をつけて待つトラセスの姫のもとへ、セラは老人二人を連れて歩み寄った。そしていつにもまして朗らかなことを心掛けて声をかける。

「お待たせっ、ネル」

「気安くネルって呼ばないでくれるかしら」ネルは不機嫌極まりない表情でサファイアを細めた。「ネルフォーネ・ウォル・ベルトアリァス。ネルフォーネさんと呼びなさい」

「そんなこと言わないでよ、ネル。わたしはセラでいいよ。フルネームはさっき聞いてたよね?」

「ちょっと……」

「それで」セラは自身の従者を示す。「こっちがヅォイァさん」

「勝手に……」

「ヅォイァ・デュ・オイプだ。主共々よろしく、お姫様」

「よろしく……じゃなくて!」

「私もちゃんと自己紹介しておきましょう。ハンサン・ゲルディでございます。王城筆頭執事に兼ねて、ネルお嬢様の世話係をしております」

「ハンサンまで!」

「ほら行こう、ネル」

 セラはネルの手を取って歩きはじめる。

「ちょ! 離しなさいっ! こらぁ~」

「これだけ上から言うんだから、相当、教えるの上手いんだろうなぁ、ネルは」

「……っ」ネルはセラの手を振りほどく。そして、腕を組むと顎を上げたしたり顔で言う。「当たり前です。もし、あなたが空間伸縮を出来なかったら、それはあなたの素質の問題ですのよ?」

「エァンダが問題ないっていってたからなぁ~」セラはネルを視線から外してわざとらしい口ぶりで続ける。「わたしがトラセード全然覚えられなかったら、やっぱりネルに問題があるってことになると思うけどなぁ~。それにさ、エァンダ、がっかりするよねきっと。ネルのこと信じて頼んだんだろうしさぁ~」

「さ、さあ、行くわよ!」ネルはずかずかと独りで歩いていく。「徹底的にたたき込んであげるわ」

 セラは彼女の隣に駆け寄り並ぶ。そうして頬をぷくっと膨らませたネルの顔を覗き込む。「お願いしまーす、先生っ」

「あなた! 馬鹿にしてるでしょ!」

「してないよ。仲良くなりたいだけ」

「わたしは、渡界人と交流を深める気はありませんわっ」

「エァンダは?」

「……エァンは、特別よ」

「じゃあ、わたしも特別になれるように頑張ろっと」

「……なんなのあなた」

「セラだよ? ほら、ネル。セ、ラ。呼んでみて」

「い、や、よ」

「ふふっ。ま、いっか。少しずつね、少しずつ」

 セラはにこやかに肩を竦めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ