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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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426:新天地

 瞑想…………。

「んー……駄目みたい」

「力み過ぎは逆効果だ。少し休みにしよう、ジルェアス嬢」

「はい」

 セラはヅォイァ老人と共に、こじんまりとした城の前庭にいた。

 広大とはお世辞にも言えないが手が行き届いた庭。丸く整えられた植木には黄色く小さな花が咲き誇り、まろやかな匂いを漂わせている。

 とても剣や棒、戦士や老軍人の似合わない場所だ。

 そんなところで二人が何をしているかといえば、人を待っている。その間にヅォイァが思うところがあると言ったセラのヴェールの力に関する修行をしていたところだ。

極集中(ごくしゅうちゅう)はどれだけ鍛錬を積んだ武人でも、そう簡単に入ることのできないものだ。だが、粘り強く続け、幾度とその体験をすることで、入りやすくなる。続けること、多く体験すること。それでしか技術としては身につかん」

 城壁と呼べるか定かではない壁の前、二人はそこに置かれた横長の腰掛に並んで座る。

「でもその体験ができないんじゃ、進まない。そもそも極集中が本当にあの力の正体なのかもわからない」

「焦りは禁物だ」

「そうは言っても、一度もヴェール出てきてないし、焦るよ。戦争の時はあんなに連続して出てさ、おしまいの方では長く保てるようにもなってたのに」

「俺が去ったあとのことか」ヅォイァは長い髭を撫でながら考え込む。「……ふぅむ、では休憩の後、実戦で学ぶとするか? そもそも戦闘時に入れなければ意味がないしな」

「うん、そうする。このまま瞑想続けてても、なにも掴めそうにないし」

「いや、そう軽く考えるでないぞ、ジルェアス嬢」

「え?」

「組手ではなく、実戦だ。俺はお前の命を奪うつもりでかかる。お前も俺を殺す気でやれ」

「そこまでしなくてもいいじゃない?」

「駄目だ。荒療治的ではあるが、深く集中するにはそれくらいしなくてはな。鬼心(おにごころ)まで体験させてやろう」

神容(しんよう)はさすがにしないよね」

「ジルェアス嬢がそれで極集中状態になれるのなら、やぶさかではないが?」

「戦ってみたい気もしなくはないけど。あのヌロゥを動けない状態にまでした力。でもそのあと三日動けなくなっちゃうでしょ」

「そうだな」

「あ、ヌロゥといえば、ヅォイァさん」

「なんだ?」

「いっぱい鏡が並んだような、万華鏡みたいな義眼って知ってる? ヌロゥのその目に見られたら、全く動けなくなったの」

「さてなぁ……。そのような目など聞いたことないな」

「そっか……。ヴェールの力があったのに動けなくなっちゃうんじゃ、もう、見ないってことぐらいなのかな、できる対処って」

 セラは長閑な空を見上げた。晴れてはいるが、わずかに霞んでいる空だ。

「そうだな。一人だけで戦ってるなら、目を閉じるしかないな」

 群青の花が散り、現れたのはエァンダだった。

 さも最初から会話に混じっていたとでもいうように、自然に入ってきた。今まで城の中で用を済ませていたであろう彼だが、外にいた二人の会話にも耳を傾けていたのだろう。そう、二人が待っていたのは彼だ。

「エァンダは鏡の目がなにか知ってるの?」

 彼の気配を捉えていたセラは別段取り乱すこともなく、彼同様、自然に会話を続ける。

「まあな。義眼で万華鏡ってのは初めて聞くけど、お前の言う状態になるのは『処刑鏡(しょけいかがみ)』だ。見た人間に希望か絶望を見せて殺す。あとな、俺が悪魔の中から見た感じだけど、お前のあの力、極集中で間違いないぞ。まあお前の場合、なんか別のも引き出してるっぽいけどな。それは俺も知らない。とにかくそのおじさんの言う通り、慣れるまで繰り返せ」

 捲し立てられた情報に、セラは気圧されながらも理解して頷く。「……う、うん」

「よし、ということでお前はこのままここに残って、おじさんと修行だ。俺は王様を評議会に連れていくから」

「ちょっと待ってよ。まだエァンダからなにも教わってない」

「俺が教えるのに向いてないのは知ってるだろ。なんのためにここまで連れてきたと思ってんだよ」

 エァンダが軽く両腕を広げて示すのは、世界。

 名前を持たない、辺鄙な世界。

 古くにナパスの民から分かれた民が、異空の表舞台から姿を消し、ひっそりと暮らす世界。

 勝手ながらナパス語で表すのなら……。


 トラセークァス。


 トラセスの地。ここはトラセスの民の世界――。

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