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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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428/535

424:今後の前に

二周年!

 第二位までが参加を許された評議は終わった。セラたちが部屋の外に出た後に、サパルとエァンダを含めた第一位の面々だけで先の評議で新たに上がった議題について話し合いが行われることになる。これにはユフォンやジュンバーですら参加を許されず、非公式な評議ということになった。いわばただの話し合いだ。内容が深刻なものを含まなければだが。

 今後の彼女たちの活動にも大きく影響を及ぼすこととなる、その話し合いの内容も気になるところではなあるが、会議室を出たセラたちにとってなによりもの大事件は、帰還した渡界人よりもたらされた驚くべき事実に関してだろう。

「まさか、エレ・ナパスが無くなってなかったなんてなっ!」

 会議室から出たところですぐに、ズィーが興奮の表情で身体を震わせた。それにユフォンが続く。自分に幸福が微笑んだかのように。

「よかったね、二人とも! 僕も嬉しいよ。二人の故郷にいけるかもしれないんなんて、ははっ!」

「うん!」セラはにこやかに頷く。「そうしたらわたしが色んなところ案内してあげる!」

「あ、それ、あたしも行きたいっ!」イソラが前髪をひょこひょこと揺らす。「昔、連れてってって、お願いしたことあるよね!」

「そういえばそんなこともあったね……あ」

 言いながら、あることに気付いたセラは表情を暗くした。

 そんな彼女の姿に会話に参加していなかったテムやキノセもどうしたことかと訝しむ。そんな若き評議員の総意を代表するようにユフォンが問う。

「どうしたんだい、セラ?」

「……うん」セラは祝福の雰囲気を壊してしまったことに申し訳なく思いながら、重たい口を開く。「あのさ、保持されてるのは、世界……だけなのかな?」

 彼女の言葉に、全員が息を呑んだ。セラの言わんとしていることを理解したらしい。

 人。

 サパルもエァンダも世界についてのみで、そこに住む人に関しては言及しなかった。セラは故郷を失ってわずかしか経っていなかったヒィズルでの記憶を思い返したことで、故郷そのものではなく、人に考えが及んだのだ。確かに多くのナパスの民はグゥエンダヴィードに囚われている。それでも、エレ・ナパスに残っている人間もいた。息のあった戦士もいたかもしれない。なによりセラの父、ナパスの王レオファーブも敵を前に残留した一人だった。危険な状態ではあったかもしれないが、命が消えるのを見たわけではないのだ。

 保持された世界の中に人はいるのだろうか。そもそも世界の保持とはどういった状態なのかもはっきりわからない。

「人か……」ユフォンが悩む。「うーん、それは、サパルさんに訊いてみないと、わかんない、よね」

「でもエァンダの感じからすれば、そんな考え必要ないんじゃないか?」ズィーは暗い顔から一転、あっけらかんと言った。そしてさらに一転、真剣な表情で続ける。「そもそもさ、ほとんど『夜霧』に連れてかれてるだろ? 戦士だってみんなとは言わないけど、もう、さ……」

「でも、まだ生きてる人だっていたはずだし、もしその人たちも一緒に保持されてるなら……」

「そうだな、そしたら助けよう」

「……うん。ごめん、今はエレ・ナパスがまだあるってことを喜ばないとだね」

「そっ、それからだ。考えるにしたって、ユフォンが言った通りさ、サパルに訊いたあとでいいだろ。確かじゃないこれからのことに悩むのはなしだ」

 ズィーはにかっと笑って頭の後ろで手を組んだ。

「……んで、これからどうする? みんな戦いがあったから、任務ないだろ? エレ・ナパスの復活祝って飲もうぜ?」

「まだ、復活はしてないよ。それにみんながそこまでする必要ないって」

「いいだろ。大勢で祝った方がいいじゃん。あ、あと前祝な、前祝ってことで。な?」

 ズィーは全員を見渡す。

「僕はいいよ!」ユフォンは笑みを湛えて頷く。「セラは必要ないって言ったけど、そんなことない。皆で祝うべきことだと思うよ」

 イソラが盛大に前髪を跳ねさせる。「うん!」

「二人みたいにたくさんは飲めないけど、俺も行く」

 そうテムが言うと、最後に彼らの視線は残るキノセに向かう。彼は未だ口を閉ざしたまま、愁いを帯びた五線の瞳を伏していた。

 その五線の瞳が上がり、セラたちをゆっくりと見返す。

「キノセ?」

 セラの呼びかけに、彼は大きく息を吐いてから言葉を紡ぐ。

「これから救えるかもしれない命の話をした後で……それに盛り上がってるとこ悪いけどさ。俺は、この戦争で失われた命を鎮めたいんだ。歓喜に酔いしれる前に、ちゃんと。だから俺は――」

 キノセを除いた全員が、互いに顔を見合わせる。そして、優しく微笑み合い、頷き合う。

 代表してセラが声を発する。

「うん、そうしよう」

「そうしようって……俺は一人で勝手にやるよ。お前らは――」

「祝いは本当にエレ・ナパスが戻ってきたときにすればいいだけだ」ズィーがばつの悪そうな顔で言う。「そこまで頭が回んなくて、悪りぃ」

「それにわたしたちだってみんなの冥福を祈りたいもの、一人でだなんて言わないでよ」

「……そうだな。じゃあ、一緒に頼む」

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