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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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421:三日後

 こうして『夜霧』、『白輝の刃』、評議会によるウェル・ザデレァを舞台とした大規模戦争『黒・白・七色戦争』は幕を閉じた。

 三者ともに名のある者から名もなき者まで、多くの人命を失った戦争だった。結果、勝者もといウェル・ザデレァの地に残ったのは『夜霧』。白輝・評議会連合は撤退し、無窮を生み出す装置の捜索権は、もとより持っていた『夜霧』が引き続き持つことになった。

 以上のことは、セラたちの帰還より三日後に開かれた評議の冒頭での確認事項だった。

 その後この評議ではノーラ=シーラの裏切りとそこからの情報の漏洩、セラがフェリ・グラデムで得た情報の報告とそれらに対する今後の動き、これからの白輝との関係について等、ンベリカが帰還前に口にしていた内容が議題となり話し合われる運びとなった。

 まず、裏切りについてだ。

 双子が『夜霧』側の人間だったことはすでに位、戦士、支援者の隔たりなく、スウィ・フォリクァの大部分に知れ渡っていた。なので評議ではその事実そのものに対して評議会内でどう扱うかについては話し合われない。この議題の焦点は、多くの情報が洩れたことへの対策と、今後協力者を向かい入れるにあたっての選定方、そして位の高い賢者やその弟子に対しての徹底した調査を行うというものだった。

 調査に関して、ゼィロスにとって双子の裏切りの発覚は誤算だった。

 彼は単独で秘密裏に賢者やその弟子たちを探るつもりでいたのだが、評議の中で「第四位の『唯一の双子』が第一位・第二位のみの評議で話し合われた内容を、知り得て流すのは不可能だろうと」声が上がったためそれが不可能な状況になったのだ。そしてその声が、セラがウェル・ザデレァでの若き評議員の話し合いの中で感じた違和感の答えだったのだと彼女は知った。

 双子だけではない。それも賢者やその弟子の中に、いる。裏切り者が。

「組織を運営する我々が互いに疑い合うのは避けたかったがやむを得ない」

 現在の評議に参加している中に裏切り者が? と表情を変えずに訝んだセラの心中を読み取ったかのようにゼィロスは言った。そしてセラは思い出す。彼が単独で探ろうとしていた理由を。

 彼は彼女を疑心暗鬼にさせないために、そうしようとしたのだ。それは伯父が姪にみせる優しさでもあったのだろうが、評議会の仲間たちに対しての気遣いでもあったようだ。

「まずは公平な調査ができる立場の人間を探すところからだが、その選定にも時間がいる。これについては追って第一位評議を開くことにしよう」

 そうして次の議題、セラの報告へと評議は移っていく。

 最初にセラ当人が『夜霧』に潜入するコクスーリャから得た情報を語る。

 裏切り者がいるという情報を得たことも、もう隠すことはない。それを含め、グゥエンダヴィードの座標、統率者『白昼に訪れし闇夜』の名、それからこの地の座標をはじめとした多くの情報が知られているということを周知のものとする。

「――最後のは裏切りも大きく関係してると思う」

「しかし『夜霧』にも裏切り者がいたことがわかったのは大きいな」そう発言したのはンベリカだった。「それもフィアルムの探偵とは。そこらの間者より情報収集力がある」

「ああ」ゼィロスが頷く。「コクスーリャと上手く協力関係を結べればいいが、互いに不用意に近づけないだろう。セラが先の戦争でヴェィルと思われる靄に対しその名を問うたことから、もしくはこの評議でコクスーリャが潜入者だと知った内通者の報告から、奴らは彼を消しにかかるかもしれないしな」

「コクスーリャなら、うまく逃げると思う。というより、もうばれたって考えて、逃げてるかも」

「では、どちらが先に見つけられるかだのぉ」

「妾かヒィズルの()の子がさ、そやつの()を知っておればさ、優位に立てたがぞ」ヌォンテェは静かに言う。「こればっかりは奴らに分があるだろうさ」

「……」

 評議会でコクスーリャの気配を知っている者は、セラやヅォイァ老人の他、フェリ・グラデムからセラを届けた彼と対面した数人しか知らなかった。その時ヌォンテェもスウィ・フォリクァにはいたが、戦士でない彼女は対面していなかった。屋内で感じ取っていたにしても時間が短く覚えきれるほどではなかったのだ。

「フィアルムの他の探偵に探してもらえばいいじゃないか? 簡単だろ?」

 評議初参加のエァンダがここで初めて口を開いた。帰還に伴い洗髪はしたようだが、髪は長いまま。卵型の椅子から、流れるように垂れていた。そして黒く染まった腕は真っ白な包帯に包まれていた。

「お前の知り合いにいるのか、仲介役が?」

 ゼィロスの問いに包帯の右腕を掲げて見せるエァンだ。「いたら俺の手は黒くなってない。今は白いけどな」

「……」

「はっはっはっは! 面白かぁ! ズエロスよ、お主の弟子は楽しい者ばかりだのぉ! よかぁよかぁ!」

「テング。なにも面白くない」

「そうかのぉ? はっは」

「んん゛。コクスーリャについてはこちらから探すのは不可能に近いだろう。探偵の変装技術は巧みだ。彼がこちらに接触してくれることを願うことしかできないな。それで、その彼もそうだがこの地へ奴らの足は伸びているわけだ。発見されにくい世界ということでこの地を選んだわけだが、これからは外からの入り口を限定するべきだと俺は考えている」

「それは賛同できま~すが。方法~は?」

「魔導賢者が知っている。当然魔素を用いた技術だが、すでにドクター・クュンゼにも協力してもらい新たな方法の開発に動いてもらっている。そして、これは次の議題である『白輝の刃』との関係にも関わることだが、彼らの技術も提供してもらい、異空とスウィ・フォリクァとの間に別空間を作り出し、それを関所にしたいと思う」

「いい考え。が、白、協力しないだろう」

 ケン・セイが半ば睨むようにゼィロスを見た。

「ああ。そこでお前の弟子の登場だ、ケン・セイ」

「イソラ?」

「酷いっすよ、師匠!」テムが前のめりに言う。「俺だから。ゼィロスさんがいってるのは、俺のこと」

「テムがどうして白い人たちと関係あるの?」

 イソラがぴょこんと束ねた前髪を揺らしながら首を傾げた。するとテムは懐から厚手の紙を取り出して言った。

「地図だ」

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