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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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424/535

420:不完全に満ちた幕切れ

 エァンダと靄の衝突。

 タェシェと暗黒の剣が境界なく交わる。

「マスター! これ以上の戦いは本当に……存在がっ!」

 二人を挟んでセラたちの向こう側、フェースが声を張り上げた。切羽詰まっている。しかし当の靄、ヴェィルは聞く耳を持っていないようで、エァンダを押し返そうと鍔迫り合いを続ける。

 フェースの様子、背後から窺う靄の姿、そして自分が感じている気配。セラはそれらから、ヴェィルがまたも弱ってきていることを知る。それも彼女が碧花乱舞を披露しようとしたときよりもさらに。ヴェールを纏えば次は勝てる、彼女はそう思った。

 闇の渦を起こし、波を起こしたあの一時こそ夥しい力の差を感じたが、今はその影もない。本当に恐怖を感じていたのかと疑ってしまう。あれが、神を屠ったのかと。

 対してエァンダは――。

「……」

 改めて兄弟子に意識を向けてみたところで、セラは小さく驚いた。彼から感じる力も、大したことがないのだ。弱ってゆくヴェイルにわずかに勝るくらい。それこそ、ここまでに傷付いた彼女より弱々しいのだ。

「サパルさん……」セラは考えついた答えを、彼の相棒に尋ねる。「もしかしてエァンダ、戻ってきたばっかりなんじゃ」

 サパルはやれやれと溜め息交じりに言う。「僕らは止めたんだけどね。セラと約束したからって」

「約束?」

「すぐ行くって」

「まだ完全に追い払えてないのにね」呆れた口調でルピ。「どれだけ愛されてんの、あんた」

「愛されてるって……ううんそれはいいや。それより、追い払えてないって、あの右腕?」

「そう」サパルは鋭い目つきでエァンダの右腕を見つめる。「あそこにはまだ悪魔が宿ってる」

「でもだいぶ弱ってるよ」イソラが口角を上げて頷く。「あたしでも集中しないと感じ取れない」

 確かに知っている悪魔の気配はセラには全く感じられない。しかしこればっかりはイソラの言葉をすんなりと受け入れられない自分が、セラの中にはいた。

 悪魔の狡猾さもあるだろうが、なによりエァンダだ。彼が抑え込んでいるという事実が、セラに納得を許さない。彼の力を持ってすれば、強大な力を残している悪魔だとしても鎮めることができるだろう。完全に分離していないにも関わらず悪魔の気配を感じないのが、その証拠だ。そしてそれは表裏一体、不安要素でもあるとセラは思った。

 抑え込むに留まっている。追い出しきれない。

 しがみついた悪魔を剥がすことは、『世界の死神』を持ってしてもなしえていないということだ。

 直に追い出せるとみるべきか、腕一本の状態で押し合い圧し合いを繰り広げているとみるべきか。

 悪魔は『夜霧』に並ぶ異空にとっての敵だ。完全に消し去るまでは、いくらエァンダが留めていると言えども、楽観視はできないだろう。

「よぉ、宵闇の王様っ……」競り合う最中、エァンダが口を開いた。「今回はお互い、見逃すってことでどうだ? あんたも俺も、この状態から動けねえのは、わかるだろ? 俺は共倒れする気はないんでね、退いてくれると助かるんだが?」

「マスター、受け入れるべきです。状況が悪い」

 エァンダの提案に応えたのはフェースだ。彼はすでに落ち着き払っているように見えるが、心拍は早いままだった。やはりヴェィルにとってこの状況は危機的なものなのだろう。

「       」

 ひくつくように靄が震えたかと思うと、靄はセラの方を見たようだった。それから黒い閃光を上げ、ナパードのように消えた。花が散らないナパードだ。

「まさかお前に助けられる日が来るとはな」

 フェースはそう言い残し、ナパードで消え去った。エァンダに向けて放った言葉らしい。

「別に助けたつもりなんてないっての」

 暗い藍色の花が散る空間にそう言うと、エァンダはタェシェを背中に納める。

「さて、帰るか」

 振り返り、何事もなかったかのように笑う兄弟子。

 妹弟子はしっかりと頷いた。

「うん」

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