表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

420/535

416:クァスティア

 神の声にセラは現実に引き戻された。

 死の幻想から解き放たれる。

 涙を拭い、見上げる景色に目を疑った。

 リーラの腹を黒き靄が、わずかに剣と分かる形をした靄が、背後から貫いていた。そしてそのままリーラの身体を持ち上げている。

 その定まらない刀身から血が滴り落ち、セラの顔に落ちた。さっきの血も、リーラのものだったのだ。その証拠に、視線を自らの腹部へと移すと身体はしっかりとくっついていた。擦り切れた雲海織り。露わになったへその周りには、擦り傷により血が滲んではいるが、飛沫を飛ばす程ではない。

 自分は生きている。

 まずそれを理解した。

 そして次に、周りの状況を理解しにかかる。なにが起きた?

 うしろへ這い出て、リーラの背後に目を向ける。そこには、剣から続く黒き靄があった。否、いた。

 人の形こそ成していないが、明らかにそこには人の気配がった。暗く、冷たい。生命活動が不安定に感じられる気配。

 リーラが足掻くが、それをものともせず、靄はセラを見た。靄に隠れてか、そもそもそこにはないのか、瞳は見えなかったが、真っ暗な闇の中から見られていると感じた。

 真っ暗といえば、辺りが暗くなっていたのも死の幻想からではなかったらしい。燦々と輝いていた太陽は天に全身を残している。雲に隠れたわけでもない。それなのに、浅い夜のように薄暗い。宵闇の如く真っ暗な靄が、世界に溶け出しているかのようだった。

「     クァスティア    」

 靄がナパスの民であるセラにも理解できない言葉を喋った。唯一聞き取れたのが『クァスティア』という単語だった。きれいなナパス語の発音でなされたその一語は、セラがかつて漂流地で出会ったナパスの女性と同じ名前だった。同一人物のことを言っているかは定かではないが、知り合いの名前だったことでより浮き上がって聞き取れた。

 それにしても今の言葉はなんだ、という方が彼女にとっては重要だった。そして、靄の存在そのもののことも。

 靄について、セラは半信半疑ながら思うところがあった。ナパス語を口にしたのだから伝わるだろうと、セラは確信半分にその名を口にした。この状況を表す通り名を持った男の名だ。

「……ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン」

「     」

 剣の形をした靄を振るいながら消し去り、リーラを砂上に投げ捨てると、靄が勢いよくセラの眼前に迫った。対してセラは身体を仰け反らせる。喉を鳴らす。冷や汗が噴き出る。サファイアを見開く。

 目の前の靄に、恐怖していた。

 殺気は感じないが、それでも、神を畏むのとはまた別の、底知れぬ恐怖を感じていた。

 靄の視線が、ふと彼女の右側に逸れたように感じる。何事かと瞳だけ動かすセラ。靄は水晶の耳飾りを見ているようだった。

 ぞっと悪寒を感じるとともに、靄が水晶に伸びてきた。

 だが、その動きはリーラの叫び声に止まった。リーラの口にした、セラにはわからない言語の叫びに。

「      !」

 叫んだ直後、リーラは靄に跳び掛かった。

 靄はセラから離れ、リーラを躱す。

 リーラは怒りに狂った様子で、再び跳び掛かる。すでにセラは眼中にないようだ。

「   」

 躱しながらなにか口にすると、宵闇の靄は再び剣をその手に現出させ、一振り。

 リーラの首が飛んだ。

 神がいとも簡単に屠られた。

 あっという間の出来事だった。

 神を圧倒する以前にいとも易々と処分した存在を目の前に、セラは逃げ出したい衝動に駆られた。敵うわけがない。

 それなのにその気持ちとは裏腹に、彼女は立ち上がり、オーウィンを構えていた。

 不思議な高揚感が闘争心と碧きヴェールを湧き起こした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ