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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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40:二人の指揮官

 その浮島はビュソノータスにしては暖かかった。

 青白い木材でできた家は真っ赤な炎を上げ、時折小気味いい高い音を上げたかと思うと大きく崩れて土埃と雑音を立てる。

 セラが跳んだ先には悲鳴も怒号も聞こえず、人の影すら見えなかった。彼女はとにかく、今までにないほど感覚を研ぎ澄ませた。あまりにも集中したせいで、頭の中が雑音で痛む。自然と彼女の端正な顔は歪んでいく。頭の痛みに耐えるように強く結ばれる唇。眉根は限界までより、サファイアの輝きは瞼によって強く閉ざされる。

「居るっ!」

 頭を痛めながらもセラは島の中に人の存在を感じ取った。それも一人ではなく大勢の人間が纏まっている。開けた場所で、戦場となっているようだった。

 痛みが消えるまで少し歩いたのち、セラはオーウィンを抜いてその場所に向かって跳んだ。


 跳んだ先は彼女が思った通り戦場だった。背中に羽を持つ男たちと黒光りする鎧を纏った男たちが至る所で武器を交えていた。しかも、明らかに天原族が押されている。今も彼女の目の前で倒れた天原族の男に鎧の男が斧を振り下ろそうとしていた。

 そんな状況に彼女が黙って見ているはずがなく、セラはすぐさま、駿馬ではなくナパードを使って斧を振り上げている男の背後に姿を現した。静かなるナパードと風を切る音もなく振るわれるオーウィンに鎧を纏った男は何が起こったか知る由もなく息絶えた。

「はぁ……はぁ……はっ?」倒れていた男は自分が生きていることを不思議がりながら、自分を殺そうとした男の後ろから現れた少女の姿を捉えた。「あんた、誰だ」

「話してる暇はない。敵の指揮官はどこ?」

「族長が応戦してるはずだ。逃がしていなければ……」

「どこ」

「たぶん、引き上げてるあいつらを追ってたはずだから、最前線だと思うが……おい! どこに――」

 セラは男の言葉を最後まで聞くことなく戦場の最前線を目指して駆け出した。

 走りながら黒い鎧の男たちを容赦なく斬り倒していく。彼女の頭の中は故郷を焼いた赤褐色の大男の顔で支配されていた。そこには人を斬ることへの恐怖が入る余地は全くなかった。

 セラの存在に気付いた『夜霧』の戦士たちが彼女に襲い掛かってきても、ナパードや駿馬、それからマカを使い全てを跳ね除けた。燃えるエレ・ナパスを、叫び、走っていた活発なナパスの姫セラフィの姿はそこにはなかった。まだまだ未熟であろうが、凛とした表情で敵を薙ぎ倒す彼女はナパスの戦士なのだ。

 徐々に黒い霧が濃くなっていき、遠くにロープスで作られた青白く縁取られた穴がいくつか見えた。『夜霧』の戦士たちが一人、また一人と悠然と穴の中に消えて行く。

 この中にあの男はいるだろうか。すでにどこかに移動してしまったのだろうか。そもそもあの男がここに来ていたと断言できない。

 セラの頭の中には疑問が過り始めた。

「逃げるのか! 貴様、統率者が部下より先に退くのか!」

 疑問を感じ始めたセラの耳に少しばかりしわがれた、威厳のある声が聞こえた。その声にぬらっとした声が続く。

「俺は引けと命令した。まだ引けぬ雑魚など部下ではない!」

 そこの声はセラの知る大男の声ではなかった。声の主はくすんだ緑色の髪を持つ、細く背の高い男で、今にもロープスのを通ろうとしていた。

 目的の赤褐色の男ではなかったものの、この場の指揮官があの男だと分かったからにはセラの行動は決まる。男を逃がすまいと、飛び掛かってきた鎧の男を軽く躱し、転がる死体を跳び越え、飛び込むように地面を蹴った瞬間に暗緑髪の男に向けてナパードを使った。

 男の真横に現れたセラはそのままの体勢で体当たりを決める。「う゛ぁっ!」

「くっ……なんだ……!?」

 男共々地面に倒れ込むセラ。

 二人はすぐさま立ち上がり、距離を取る。互いに相手を間合いに入れながら剣を構える。歪んだ形の剣をすぐさま構えた男を、セラはできる戦士だと感じた。突然のことに動じず、すぐさま敵に剣を向け戦闘態勢に入ることができる。先程の一言は指揮官としてはどうかと思うが、一戦士として目の前のくすんだ緑色の双眸を持つ男は大きな力を持っているだろう。

「お前、何者だ? さっきの……渡界人のようだが。戦士とは珍しい」

「赤褐色の大男はいるのか」

「赤褐色……? あぁ、そうか、故郷の復讐かぁ。残念だが奴はいない。部隊が違う」

「そう……なら、お前の持ってるロープスをもらう!」

 セラはナパードを使い、男の背後から斬りかかった。しかし、男はぬらりとその一太刀を避けて歪んだ形の剣を振るった。セラがそれを受け止めるとじりじりと鍔迫り合いが始める。

「俺らの世界に行きたいのか?」男は粘っこく笑う。「っくく、なら連れてってやる、くっくくく、渡界人の戦士を始末したとなれば俺が一番隊の――っ!」

 男は傍から飛んできた刃をセラから離れる形で回避した。男を攻撃したのはしわがれた威厳ある声の男だった。

「わけは知らんが、ヌロゥはわしの敵でもある。助太刀するぞ、少女よ」

 男は白髪と羽根っ毛をなびかせる老戦士だった。セラが助けた男の話しならこの老戦士こそ天原族の族長ということになる。

「老いぼれは引っ込んでろ……お前らの役目は終わったんだよ」

 老戦士にヌロゥと呼ばれた男はぬらっと面倒臭そうな表情で老戦士を睨んだ。

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