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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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402:天を覆う白

「こんな短時間で……」

「もともとこういうことになることも考えて、備えてたんだろうね、グースは」

 治療を終えたセラはテムと共に野営地の外に出ていた。その身体には煌白布の包帯が巻かれている。ユフォンの治療により外傷は概ね消えていたが、打撲や骨折が残っていた。それらを治すためだ。

 もうすぐ原色を取り戻そうとする空。しかし朝日は彼女とテムには見えなかった。

 二人の眼前を塞ぎ、影を落とすのは純白な金属製の大型船。それも一隻ではない。野営地をぐるりと囲むように、複数の船が何重かの壁となっているのだ。それも複雑に入り組み合い、密集しながら。

 これはグースがわずかばかり前に白輝の兵たちに出した指示により、早急に設えられた砦だ。今もなお外周に、布の中から船が出されていっている。

 白輝・評議会連合軍はこの砦の中に籠城する。それがグースの打ち出した作戦だった。

 それもただ守りに入るというものではない。籠城と言いながらも、短期最終決戦をと考えているとグースは言っていた。次に敵が攻めてきたときが最後の戦いだと。

 船たちが入り組んでいるが、あれは敵が攻め込むための入り口や道順を固定させるためだという。そのうえで至る所に潜む訓練された白輝の兵たちが、敵を返り討ちにする。そうして敵兵の数を減らしていきながら、掻い潜ってきた敵を野営地前で待機する精鋭で叩く。

 その精鋭とはセラとテムも含んだ賢者や将軍たちだ。

「戦闘不能者と非戦闘員の退避が終わった! 布を張れ!」

 砦の制作を指揮していたデラヴェスが兵士たちに号令を出した。それに合わせ各々の船上の兵士たちが、高いところで巨大な煌白布を広げながら渡してゆく。地上にかかる影と共に全体に行き渡ると、布は固定された。

 煌白布が空を覆った。

「これで、外に出られなくなった」

 これはグースの内通者への対策だった。船で囲まれた地帯を別の空間に変え、異空はおろか砦の外にも出られないようにしたのだ。グースが作戦を発表した時から、すでに通信機も役に立たなくなっていた。ここから情報が洩れることは不可能だろう。

 そしてデラヴェスが口にしたように、現状で動けない戦士と支援組はウェル・ザデレァを去った。評議会側に関していえば、数人を残し動ける戦士も全員が帰還したことになる。これには白輝側が評議会に内通者を疑ったという理由も挙げられるが、もう一つ、砦に潜むのは白輝の兵だけで充分だったからという理由もあった。訓練されていない評議会の戦士が混じれば、統制が乱れ、不必要な混乱を招く恐れがあるからだ。

 デラヴェスがセラのもとに来た。近くで見ると、鎧の下、彼も胴に煌白布を巻いていた。

「見事な一撃だったぞ、『碧き舞い花』」

 皮肉めいた将軍の物言い。セラは眉を顰める。「なに?」

「ふん、感謝するんだな。俺がそいつを持ち帰った」

 デラヴェスが視線で示したのは、彼女の背中のオーウィンだ。

「え、そうなの? ありがと……で、何が見事な一撃?」

 感謝の言葉を口にしつつも、やはり最初の一言が要領を得ないセラ。するとデラヴェスは腹を擦って見せた。

「危うくお前に討ち取られるところだった」

「……それ、オーウィンが?」理解すると、敵対することがあるとはいえ謝罪が必要だろうと、セラは頭を下げた。「……それは本当に、ごめん」

「別に謝罪を求めてるわけではない。この程度、すぐに治る」

 ムッとするセラ。「じゃあ、なんのためにわざわざ?」

「死神に会ったぞ。死線を彷徨う中でな」

「デラヴェス将軍でも死神なんてものを信じているんですね。意外」

「違うぞ、シグラくん」

「え?」

「テム、将軍が言ってるのは『世界の死神』のことよ」セラはテムにそれだけ説明すると、デラヴェスに真剣な顔で訊く。「エァンダはなんて?」

「ほう、その口ぶり。お前も奴と精神内で話したことがあるんだな」

「まあね。それで?」

「『俺の首を取る前に死ぬんだな』と挑発してきた。息も絶え絶えな自身を棚に上げてな。まったく癪に障る男だ」

「そっか。他には? もうすぐ行くとか言ってなかった?」

「ないな。だが、そうか、奴が来るのか。それは楽しみだ」

 デラヴェスははんっと小さく息を吐いて、セラとテムの前から去って行った。

「エァンダさんが来るなら、イソラも来るってことか。そうだよね、セラ姉ちゃん」

「エァンダが言ってたことが本当なら、たぶんそう」

「セラ姉ちゃんより強い人なんだよね。やっと会えるかもしれないって思ったら、ちょっとワクワクしてる」

 無邪気とも思えるテムの笑顔。セラも合わせて笑う。

 ――待ってろ、すぐだ。

 彼は夢の中でそう言っていた。

 ――すぐって、いつよ。来る前に全部終わらせちゃうよ、エァンダ。

 セラは心の中で冗談っぽく兄弟子に語り掛けたのだった。

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