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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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399:足踏み

 立ち上がったセラとリーラ神の肉弾戦は、打っては打たれの繰り返しだった。

 頭を打ったセラもそうだったが、リーラ神にも疲労の色が見えていた。神自身というよりは、人間のリーラの身体がついていかないといった感じだ。

 セラがリーラの上腕を殴ったとき、互いに砂に足を滑らせ砂丘を転げ落ちた。すでに脛のあたりまで満ちていた水溜りが先にあり、二人は同時に水しぶきを上げた。

 そして互いに、体勢を整えると仕掛けた。

 リーラはその目でセラを捉え、セラは衝撃波のマカを手から放った。

 両者から出た力は水を押し退け、中央でぶつかった。そして、マカが破れた。

「くぁっ……!」

 神の力がセラを跳ね飛ばした。マカとの衝突で弱まっていたらしく、水溜りの縁辺りにセラの身体は落ちた。

 ぴちゃぴちゃと水を撥ねながら、リーラがセラに迫る。が、ぬかるんだ地面に足が沈んだ。

「っ!?」

 リーラは体勢を立て直すことができず、崩れた姿勢のまま水溜りに倒れた。

 エメラルド煌めく瞳でそれを見たセラには攻撃の手段も取れただろう。しかし、彼女は背中のバッグに手を入れた。

 水筒だ。

 キノセの癒し音が施された水を、セラは男勝りにがぶ飲みした。

 飲み干すと、口の端から漏れた水を、切れて滲んでいた血と共にグローブの甲で拭った。「ありがと、キノセ」

 水筒をしまいながら、ゆったりとだが疲労が取れていくのを感じる。逆鱗花の葉の急激な疲労回復作用には劣るが、断然、身体に優しい感じだった。これなら大量摂取でも、暴走はしないだろう。

「まだ終わらないようですね」

「リーラの身体、もう限界じゃない?」

「そうですね。……仕方ありません。あまり慈悲なきことはしたくなかったのですが」

「え?……っ!」

 セラは気を引き締めて身構えた。先程考えたことは間違っていたのかもしれないと、考えを改める。

 リーラの真っ白の目が、黒く染まった。

「ここまでさせてしまった」リーラが消えた。そしてセラの後ろから声がする。「汝自身を恨んでくださいね」

 セラは背中を蹴られ、水溜りに突っ伏した。そこに非情な色の声が降る。

「もしくは……未熟を恨みなさい」

 とどめとばかりにゆったりと、リーラは脚を振り上げる。かと思えば、水に伏したセラの背を目がけて振り下ろした足は、裏腹に素早い。

「っ……!」

 背後に感じる神の動きはナパードを許さないと言わんばかりの速さ。もしかしたら捉えられるかもしれない。その考えを必死で振り切り、セラは跳んだ。ここまでがむしゃらにするのは久しいと思う程、うるさく雑なナパード。

 だが、その音はナパードをしたセラ当人にも、間近にいたリーラ神にも聴こえなかっただろう。

 誰にも、聴こえなかっただろう。

 そしてその碧き花の輝きも、誰にも見えなかっただろう。

 セラは砂丘の上で起き上がり、息を呑んだ。

 神を(かしこ)む。

 神の足踏みは、水はおろか砂までもを天高く真っ直ぐと立ち上がらせていた。なにかが爆発したような轟音と、中心部の煌々とした白い輝き。それらによってセラのナパードの足跡(そくせき)は跡形もなく消されていたのだ。

 リーラの姿は水と砂と、光の中。気配だけがそのことをセラに報せる。

 たらりと汗が頬を伝う。すぐに次の攻撃を仕掛けてこない恐ろしさ。リーラにとって、焦ることなど必要などないのだ。

 光が収まり、水と砂が滝の如く大地に戻っていく。その中央に、立つリーラ。否、浮くリーラ。水と砂はそのまま真下もといた場所を通り過ぎ、地下深くまで落ちていき、その姿は見当たらなくなった。

 大地は大きく穿たれていた。

 ちらり――。

 漆黒の(まなこ)が呆然と砂丘にへたり込んでいたセラを見た。

 セラは未だにエメラルドを留めている目を瞠った。

 身体が揺れているように感じる。視界がぐわんぐわんと拡大と縮小を繰り返す。手先がちりちりと痺れているようだ。金切り声のような耳鳴りもする。

 同じ目の力なのは間違いなかった。しかし程度が異常だった。すぐには身体が吹き飛ばなかった。

「うっ……」

 吐き気を催した。セラが酔った。

 途端、身体が引き裂かれるような感覚に見舞われ、彼女に纏わっていたヴェールが掻き消えた。そしてあっという間もなく、彼女の身体は(よじ)れながら吹き上げられた。

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