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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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398/535

394:神の猛威と彼の想い、そして彼女の戦意。

 それぞれが月の光を背に、八羽と求血姫が空を戦場とする。

 セラが見たのはそこまで。観戦している余裕も暇もないのだ。

 リーラ神はその言葉の通り、猛威を振るいはじめる。シーラを打ち落としたケン・セイを、進路を塞がれたノーラとリーラが、息の合った動きで蹴り落としたのが最初だ。

「師匠っ!」

 砂上に撃墜された師のもとへテムが動き出そうとしたその瞬間、彼の前にはシーラが青い長髪を扇のように大きく広げ、立ち塞がった。

 反応を見せるテム。しかし、後ろで括った髪を揺らすだけに留まった。反応することで手一杯、対応することは全くできないといった様子をセラは傍で見た。

 見たときには、彼の身体は後方へ大きく吹き飛ばされていた。

「テ――」

 彼を振り返ろうとしたセラのサファイアには、彼女に向かって見開かれるシーラの白い眼が映った。

「――っ!」

 身体が揺れる感覚に襲われる。それも束の間、セラの身体は大きく回転しながら飛んでいた。

 ――これは、ヨコズナの。

 セラの頭の中、ヨコズナ神の憑依したシメナワに見られただけで吹き飛んだコクスーリャの姿が蘇る。あれはやはり神の力だったということか。

「っセラ!」彼女の進行方向へとズィーがナパードで現れ、身体を受け止めてくれた。「大丈夫か」

「……大丈夫、ありがとう」

「にしても、何された? すげー飛ばされたな。すぐ跳んできたのに」

 彼の言う通り、二人は戦場から遠く離れた場所にいた。後方、『夜霧』の本丸である砦が今までで一番大きく見えていた。

「ただ見られただけよ。あれが神様の力」

「っかぁ~マジかよ、それ。見ただけで飛ばせるって……ん? そういや、エァンダが見ただけで斬った、みたいなこと言ってなかったか、お前? 『異空の怪物』相手にしたとき」

「うん。あれは千切ったっていう方が正確だけど……でもそっか、なにか通じるものがあるのかも」

「そう考えると、別に神様だからってやってることは俺たちと変わんねーんじゃね?」

「桁違いだけどね」

「へへっ……違いねえ」

「戻ろう」

「ああ」


 破れに破れていた。

 リーラ神が猛威を振るったことで、均衡がとっくに崩れてしまっていたことはセラにも分かっていた。

 それでも、賢者三人にその弟子二人が相手をしていれば、なんとか八羽が指輪を奪うまでの足止めくらいはできるものだと思っていた。テムもそう考えての作戦だったはずだ。

 それなのに、現在三つ子を相手にしているのは、『闘技の師範』ただ一人を残すのみとなっていた。

 吹き飛ばされたテムを除き、他の三人は砂上に転がっている。命はあるようで、呼吸によってそれぞれ胸部が上下していた。それだけが救いか。

 指揮者二人と『無機の王』は近接戦闘を得意としないところではあるが、そうはいってもかなりの実力者だ。

「こんなことが……」

 ズィーがセラの気持ちを代弁するように言葉を零した。

 この光景に、舞い戻った二人の渡界人は揃って目を疑っていたのだ。そう、セラも。

 気読術を持つ彼女も、この状況を遠くから感じることはできていなかった。離れていたからというよりは、神を宿した三つ子の気配が大き過ぎたのだ。その気配に埋もれて、仲間たちの危機をなにひとつ感じ取ることができなかった。

「……ケホッ……ゲホッ…………」

 二人に一番近いところに倒れていたキノセが咳き込んだ。セラはすかさず駆け寄る。そして思い出したように、自身のバッグを漁る。

 そこから取り出したのは、この戦の前にも彼に差し出した水筒。あのとき、キノセは飲み干して空にした木筒に水を満たし、加えて安らぎの旋律を纏わせた。

 あれは軽度の癒しの音だ。万全には程遠いと言えど、身体の疲労が和らぐ。

「キノセ、飲んでっ」

 彼の口元に呑み口を持っていくセラ。しかし、キノセは一向に口をつけようとしない。ついにはセラの手を、弱々しく押し返した。

「いい……」

「強がらないで飲んで」

「違う、ジルェアス……」キノセは体を起こす。「俺が飲んでも、役に立たないから……残った三人で使え、いいな。俺は、なんとか動ける。師匠たちを野営地に運ぶ」

 五線の瞳は強い意志を宿し、ただただ真っ直ぐだった。

 動けるとは言う彼。確かに身体に大きな負傷は見当たらない。だが、セラが気配を感じる限りでは、その弱々しさはやっと歩けるかどうかといった具合だ。

 前回部下を失った経験からくる想いが、彼を動かそうとしている。セラにはそう思えた。だから、頷いた。

「……分かった」

「頼んだぞ、ジルェアス。神、倒したことあるんだろ?」

「……」

 セラはわずかに目を瞠った。彼の言葉は冗談とも取れた。実際そうだったのかもしれない。けれど、彼女はすぐに真摯な眼差しを向け、彼の瞳をサファイアに染めんばかりに見つめると、短く「うん」と応えた。

「みんなをお願い。こっちは任せて」

 立ち上がり、視線を戦場へ向ける。

 ケン・セイと三つ子。そしてキノセとの会話の間に戦い出していたズィー。彼らを収める彼女の瞳にエメラルドがうっすらと宿りはじめた。

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