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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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393:鍵を握るは

「行こう、ズィー。もうすぐ包帯の二人も来る。気を抜かないでね」

 セラはズィーに先んじて戦場に向かっていく。「って、お前が言うかっ?」という背後からのズィーの声は知らんぷりだ。

 ケン・セイの言葉とズィーの励ましのおかげで、セラは吹っ切れていた。

 やけになってがむしゃらになったわけではない。裏切り者へも意識も、盟友だった者への感情も抑えられている。全く無くなってしまったというわけでもないのだが、今の彼女は、どうしてそのことばかりを考えてしまっていたのかと、自身で不思議に思うほどに何ひとつ引っ掛かりを感じていなかった。

 そんな彼女の動きは、件の力の発現を見ることなくとも軽かった。周りもよく見えている。

 バルカスラ人を相手にするに当たって、それほどに充分なことはなかった。

 今や神は三つの身体を近場に集め、戦場は七対三の構図となっていた。評議会側は前衛と支援に分かれ、連携をする。それで均衡した戦況だった。

 数の利など感じさせないのは、バルカスラ人の戦闘の独特さもさることながら、やはり相手が神であるからだった。

 以前、神の憑依した人間と戦ったことのあるセラだが、先のヨコズナに比べ、リーラは人の身体を使いこなしているように感じた。

 自身が世界だと豪語するヨコズナ神と違い、人や世界を想っていると受け取れる言葉を口にしていたリーラ。そんな場面が、リーラが現れた直後にあった。

 ただ単に神にも得手不得手というのもあるのだろう。だがそういった、人を想うかどうかの差もあるのではないかと、セラは戦いながら思った。今思えば、ヨコズナがシメナワの身体に入り込んだ時は最終的にその眼を真っ黒に染めていたが、リーラは白目のままだ。それは憑依の度合いを示すようなものではなく、神が人をどう捉えているかの違いではないかと思えてくる。

 ――ともかく、神様も人と同じような感情を持っている。

 戦いの前、ルルフォーラへ向けた言葉と、セラたちに向けた言葉には明らかな温度差が見て取れた。何よりリーラは、三つの顔をそれぞれ歪めて戦っていた。心苦しそうに、評議会の面々を攻めるのだ。

「みなさん、戦いながらでいいので、聞いてください」

 ちょうどそんな顔のシーラよってに蹴飛ばされ、砂丘に寝そべったところでテムが言った。

「求血姫から、指輪を……鍵を奪いますっ」

 その言葉に、セラはリーラの攻撃を躱しながら上空で傍観するルルフォーラを見上げた。朱色と桃色が交互に入った髪と燃えるような目が、夜空に際立っている。

「そんなこと~は、すでに考えていること~です」とメルディンが呆れと苛立ちの混じった声を上げる。「できるなら、とっくにやっていま~す」

 確かにメルディンの言う通りだとセラも思った。ルルフォーラの持っていたあの鍵が、神を支配下に置いている要因なのは明らか。それを奪うことに勝機を見出すなんてことはこの場にいる強者たちはすでに考えていることだ。それをテムは今さら口にしたのだ。

「そうでしょうね。考えがあるから声を上げたんですよ、『界音の指揮者』様っ」

 笑みに張り付いた顔をわずかに歪め、肩をすくめるメルディン。「ふんっ」

「高みの見物もそこまでだ」テムはキッとルルフォーラを睨む。「求血姫っ」

「あら、そう?」ルルフォーラが口を開くと、戦いが止まる。「何を考えているかは知らないけれど……できるかしら。ねっ、リーラちゃん」

「……人よ、その思慮には賛同するわ。それでも、余は邪魔だてを緩めることはできません。むしろ、主となっているあの小娘を守るとなったら、タガを締めていた今までとは違い、余は猛威を振るうことになります」

「そうですか、神様……ご忠告ありがとうございます」テムは立ち上がる。「ついさっき、昼間に聞いたヨコズナ神とは違って話せる神様でよかったです」

 ヨコズナ神についてはもちろん、セラが彼に話したことだ。彼女がこの地での初陣をする前の行軍の中で。

「利かん防……。ヨコズナと会った子がいるのですね。ですがそれでも、余を差し置いて汝らがあの小娘に手を触れることはできないでしょう」

「さて、どうですかね、神様」テムはここでセラに視線を向けた。「セラ姉ちゃん、ジュランさんを探して連れて来て」

「え……うん」

 セラは言われてすぐにジュランの気配を探る。ここにきてそういえば彼がいなかったと、そしてテムの考えの意図を理解しながら。

 クェトのもとから賢者たちを探ったときに比べれば、戦場はすぐ近く。これくらいの距離ならば、雑然とまとまった人だかりでも、特定の人物を見つけることはそこまで難しいことではない。案の定ジュランの気配はすぐに見つかった。

「見つ――」


「――けた」

 セラは言葉が終わる前に、八羽の男を連れて元の場所へと舞い戻った。隣りの当人はわずかだが、ナパード酔いでえずいていた。

「……ぅっぷ、んだよいきなり、クソガキっ……!」

「ジュランさん。すいません、俺が無理を言ったんです」とテムは二人のもとへ駆け寄ってきた。

「あ? んだよ、軍師のガキか。俺たちの戦士の方に行くの許したってのに、なんだってんだよ」

 テムは上空を指さした。

「あの女の指輪を奪ってください」

「は? なんでわざわざ俺だよ。ここに揃ってるメンツなら、できんだろ。おい、セラ。お前、好きだろ高いとこ」

「だから好きじゃないって」

「ジュランさん、お願いします」テムは真摯にジュランを見つめた。「俺たちは地上であの三つ子を食い止めるので、その間に腕を斬り落としてでもあの女から指輪を奪ってください。空ではどうやったってあなたが一番強いでしょ?」

 最後にテムが挑発めいた笑みを見せると、ジュランは、ははんと笑った。

「わかってんじゃねーの。指輪でも命でも、奪ってやるよ」

 今にも飛び立とうとするジュランにセラは制しをかける。「ジュラン」

「んっだよ」

「あまり血を流させないでね。ルルフォーラは出血の量に比例して身体能力が向上するから」

「っは、好きなようにやらせろっ」

「ちょ――」

 八羽を羽ばたかせ、瞬く間に夜空高く昇り。彼女が声を出した時には、八羽の英雄は求血姫のいるところまで辿り着いていた。

「大丈夫だよ、セラ姉ちゃん。むしろ、俺たちの方が気を引き締めて挑まないと――」

 そうテムが言っている間にも、三つ子は浮かび上がっていて、それをすかさずケン・セイが一人、シーラを叩き落とし、ピュウォルが剣で残り二人の進路を塞いだ。

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