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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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390:見せ場

「で、どうすんだセラ。魔闘士の方はいいとして、あの野獣野郎に同じ手は通じ――」

 セラはズィーに手を触れた。

「――ねえぞ……ってなんでだよっ!」

 二人はまさに戦場真っただ中にナパードで姿を現した。突然のことに驚いてはいたが、ズィーはすぐさま、近場で評議会の戦士に跳び掛かっていた敵兵を斬り伏した。

「言ったでしょ。挟み撃ちにあってるからすぐに戻らなきゃって。クェトは気付いてたみたいだけどっ」

 攻めきれずに手こずっていた仲間に助太刀しながら、セラは続ける。 

「あの二人が元に戻されそうだったから止めようとしたけど、できなかった。少しだけど情報が得られたのが成果かな。特に最後のは」

「最初から戦う気なかったのかよ」

「護り石のこと話し出さなかったら、もっと早くこっちに来てたっ」

 セラは迫り来た敵を衝撃波で弾き返す。そして、ある方向を目指して、ズィーを伴い移動をはじめる。挟撃に合い白輝の軍が後方へ動いたせいか、それともその前からか、評議会に陣形と呼べるようなまとまりはなくなり、強者と弱者が混じり合っていた。その中でも、ここらにはそれほど強者はおらず、会話をする余裕もあった。

「それに、たぶんだけどあの二人はわたしたちを追ってこっちに来るだろうし、クェトは戦う気はないって言ってたからあの場からあのあとすぐに去ってたと思う」

「せっかく二対二で足止めしたのに、追ってこられたら意味ないじゃんかっ」

「なに言ってんのっ。挟み撃ちになってるんだよ? 足はもう止まってる。それに東の野営地が落ちたっていうのも、みんなに広まってる。グースも焦ったのかな、今は言わずにおけばよかったのに。士気が落ちかねない」

「で、どこ向かってんの、これ」

「ケン・セイたちのところ」

「最初から跳べばよかったろ」

「ごちゃごちゃしてて、そこまで探れなかったの」

「つか、なんでケン・セイたちのとこ? この辺で戦えばいい」

「あの二人が追って来たら、わたしとズィーだけじゃもう止められないでしょ」

「ぅ……まあ」

「ケン・セイたちならまだ他の手があるかもしれない。それに、近付いてわかったけど、ケン・セイのところに、ルルフォーラがいる……というか、もう跳べる」

 セラは再びズィーに触れて、今度こそ目的のケン・セイたち賢者が集中している地帯へと跳んだのだった。


 求血姫は宙にふわりと浮かんでいた。

 そんな彼女を一瞥するとセラは、その一帯だけ戦争とは違った重い雰囲気を漂わす地上へと視線を落とした。

 ンベリカを除いた三人の賢者とキノセの四人が、三人の少女(・・・・・)を囲んでいる。ンベリカとテムはわずかばかり輪を外れていた。どうやらンベリカが負傷し、テムが介抱に入ったようだ。

「なんだ?」ズィーが訝し気に顔を顰める。「なんで揃いも揃って、ノーラ=シーラ囲ん……って一人多くね?」

 セラは訝しむというより、困惑と哀感の入り混じった表情に近い。「……リーラね」

 赤髪と青髪と共に、互いに背を預ける形で立ったもう一人。黄色、ちょうど他の二人の中間ほどの長さの髪を持つ、双子に瓜二つの顔の少女。彼女の呟きに対して、わずかに口角を上げたように見えた。

 尋ねる必要もない。リーラだ。

「リーラ?」ズィーは状況が理解できんとばかりに戸惑いを見せる。「それっていないんじゃなかったのか」

「嘘だった……ノーラとシーラが、裏切り者……だった」

「マジかよっ、これってそういうことなのかよ……」

 ズィーはバルカスラ人をまじまじと見た。そうしてから、一言「そっか」と呟いた。

「バルカスラ人の特性を利用して、情報を手に入れていたってことね……」

 双子でありながら、否、三つ子でありながら一つの人格という特性。それはつまり、離れた各所に同時存在でき、意思疎通できるということだ。情報を手に入れすぐに流すにはうってつけのものだった。

「ふふっ、まあ、そういうことね」上空からルルフォーラが声を降らす。「でもそれよりも……ちょうどいい所に来たわね、セラフィ」

 優雅な所作で楽し気に笑ったルルフォーラ。口元を隠す手には、一本の鍵がつままれていた。凶悪な笑みの男と苦悶に歪んだ顔の男の彫像によって形作られた鍵だ。

「裏切りの種明かしも見せ場ではあるんだけど、一番の見せ場はここからよ」

「はじめましてね、この身体は」ここでリーラが口を開いた。勝気な、悦に入った笑みを見せる。「でもわたしとしてはずっと二つの身体を通してあなたを感じていたわ、セラ」

「……」

 セラは下唇を噛み、無言でリーラを睨む。やはり、その特異な体質で情報を『夜霧』へもたらしていた。

「初めて見る顔。敵にはそんな怖い顔を向けるのね。でもね、セラ。わたしだってあなたに全てを見せてたわけじゃない。だからおあいこよ」

「ごめんね、セラ」

「わたしはこっち側なの」

 ノーラ、シーラと続き三つ子は黙った。代わりにルルフォーラが口を開く。

「はい、じゃあショータイムといきましょう」

 求血姫は大地に立った三つ子に向けて、鍵を回した。

 ぶわっと冷たい風が膨れ上がった。伴って砂も舞い上がり、砂嵐となってセラたちを襲う。視界が塞がれる中、ルルフォーラの声が鮮明に聞こえた。

「わたしが嫌いで嫌いでしょうがない、神様ってやつの降臨よ。でもその嫌悪も我慢できるくらい、嬉しいのが、その神様を従わせることができるってことね」

 砂嵐が収まりはじめ、その中心にいた三つ子の姿が次第に見えてくる。容姿に大きな変化は見られない。強いて挙げるなら、白目をむいているようだった。容姿の変化はそれくらい。

 なにより大きく変わったのは、気配だ。桁違いに膨れ上がっていた。三人いるはずだが、個々に分けて感じることはできない。三つの気配は重なり合い、一つとなっていた。

「……っ、ここは……人の器……」

 三つの口から、それぞれ二重の声が放たれた。ノーラ=シーラ=リーラの声とそれとは別の女性の声。

「それも三つ……余の、バルカスラの子らか……ぬ、違う、バルカスラはどうなった! 余の地はっ! ノーラは! シーラは!」

 三つの頭が上を向く。

「っ!……外界の小娘っ……っ! その鍵……ノーラとシーラはそこかっ! 小娘っ、それを渡せっ!!」

「駄目よ、リーラちゃん。あなたはわたしのしもべなんですから、言うことを聞かなくっちゃ」

 ルルフォーラは肩をすくめてその手から鍵を消した。指輪にしまったのだろう。

「っぐ……ホーチュナ、あなたはっ……厄介なものを作ってくれた……!」

 二重だった声はこの時点で一つに重なり、開く口もリーラのだけとなった。

 白目も膨れ上がった気配も、重なる声も、シメナワの時と同じだった。

 神が人の身体に馴染んだ。

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