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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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388:髑髏博士の生命の波講座

 スヴァニは獲物を狩ることなく、止まった。受け止められた。

 未だ、フォーリス、ガルオン両名は元通りにはなっていない。それなのに、止められた。

 博士の顔から首辺りにかけてを守るように、六角形を四、五枚ほど連ねてできた壁が現れたのだ。

「障壁のマカ!?」ズィーはスヴァニを引き、もう一度、今度は壁のない個所を狙って振るおうとした。「くそっ」

 しかし包帯が彼をクェトから剥がした。それと同時に、壁は音もなく消えた。

 セラは追撃はせずに訝しんでいた。確かにズィーの言うように障壁にマカに似たものには違いない。しかし、クェトからはもちろん、フォーリスからもなんらかのマカを使った感じはなかった。

 気魂法で掻き消せるか――。

 その答えは彼女が試す前に、『紅蓮騎士』によって出された。

「っは!!」

 風圧が散る。しかし、壁は散らずにスヴァニを受け止めた。

 ズィーはセラのもとまで後退してきた。「駄目だ、マカじゃねぇな」

「それはわかってる。けど、気魂法で掻き消せないって……」

「不思議がっていますね、ふぅむ……その答えを教えるくらいには話のできる時間はありますかね。お二人が阻止を諦めて、戦場へ向かうのなら別ですが? どうですか?」

 クェトは戦場で、しかも自分の命が狙われているという状況にも関わらず、またも悠長に話をしようというのだ。

 セラはそれに便乗することにした。「教えて」

「おい、セラ。そんな場合かよ」

「さすがは『碧き舞い花』。勉強熱心なのはいいことです。いいですか」

「おいっ……」

「興味ないなら黙っててズィー」

「うげっ、マジかよ……」

「今しがた『紅蓮騎士』が試したのは生命(いのち)の波そのものを放ち、他者の能力を打ち消すものですね。それは分かっていますよね」

「生命の波……。その言葉は知らないけど、たぶん思い描いてるのは同じことだと思う」

「おや、そうですか。では確認のために生命の波について簡単に。それは生きとし生けるものであれば必ず持っているもの。心拍、鼓動に近いものであり、まったくの別物でもある。各個体がそれぞれに別個のものを持ち、同種の生命間では似たようなものになる、にも関わらず、全く同一の波は存在しないという特性を持ちます。ですので鼓動の指紋、鼓紋(こもん)などとも言います。この鼓紋の違いによって人ないし生物を判別する技術を、あなたはお持ちですね。共通的に気読術と呼ばれるものです。つまりは、気配や雰囲気と捉えることもできる。それが生命の波です。ここまではよろしいですか、『碧き舞い花』」

「理解できてる」

「では続いて、その生命の波を放つという技術についてのお話です。この技術は自身の波を乱して惑わすものや、他者の生命の波を基盤とした技術を消し去るというものですね。生命活動に根差した能力……ここにいる魔闘士やあなた、そして僕も使えるマカもその一種。元を辿れば生命の波からくるもの。あの世界の人間よりも異界人であるあなたの方が、そのことを強く感じられるはずです。辛い思いをしたでしょう、その力を得るために」

 クェトは言いながら、自身のへその下あたりを擦って見せた。臍下丹田(せいかたんでん)だ。

「先ほど生命の波が心拍や鼓動に近いが別の物と言いましたが、そのひとつが発生源の違いですね」

 博士は手を腹から離した。

「こうした生命活動に根差した能力はあらゆる世界で進化しましたが、どう形を変えても、必ず生命の波の影響受けているんです。体調不良で本来の力が出なくなってしまったりするなどの根本にある理由ですね。そして影響を受けるのは自身の波だけではない」

「他人の波の影響も受ける。それを利用したのが気魂法の掻き消す力ね」

「さすがですね。その通り。波を放つ技術を用いて、他者の放った生命活動を基にした能力を打ち消す。それがあなたの言う気魂法という技術の基本です。幻惑を取り除くことに関しては、正確には打ち放たず、自身の波を整えるといったところでしょうかね」

「……つまり、あなたが使っているのは生命活動から離れた力ってことね。あなたは、やっぱり死んでいるのね」

「生命活動に根差していない力を使っているのなら死んでいる。……正解と不正解を含んだ答えです、それは」

「え?」

「ご指摘の通り、僕を守った力は生命活動には根差していないものです。しかし、僕はしっかりと生きています。そこが不正解です」

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