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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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385/535

381:出陣は目前に

 二つの月が照らすウェル・ザデレァは、星々が地上を照らすペク・キュラ・ウトラの朝よりわずかに明るいくらい。日中の原色は鳴りを潜め、世界は仄かに灰色がかった青色に落ち着く。

 乾いた風が吹けば、肌寒さを感じるほどに気温も下がっている。

 しかし、テントの外に出たセラは熱気を感じた。変態術や雲海織りの衣服がそうさせたわけではない。そうさせるまでもないほどの、他愛もない気温なのは間違いない。

 ただ、前回の出陣のときを上回る数の戦士たちが出揃った状況がそうさせていたのだ。

 超感覚で他人より夜目の利くセラですら、遠く離れた戦士たちの姿を捉えることができない。気読術で人だかりの果てを感じ取るにとどまる。

 負傷者と非戦闘員、そして東の戦線に残った者たち。彼らを除いた総員がこの場にいることになる。

 白輝の参謀グースもその一人だ。夜でも目立つ真っ白な鎧に身を包み、総大将のヴォードと共に小高い砂丘の上に立っていた。他の将軍たちそれぞれ、自分の預かる隊の先頭に立っているようだ。際立った気配が三つ、隊列の中に等間隔で点在していた。

「作戦概要は伝わっている通りです。最悪の事態を想定しつつも一気に攻勢に出ます。戦場では各将軍、及び副将の指示に従い――」

 セラは彼が白輝の兵たちに向け、拡声装置を使って語り掛けているのを見ながら、評議会の戦士たちが雑多に集まる一団に加わった。

 彼女が群れの中に入ると、戦士たちが感嘆に似た息を漏らす。

「セラさんだ」

「来てたんだな」

「俺初めて、こんな近くで見た」

「俺もだ」

「活躍してぇ……」

「……ああ、そしたら話せるかもしれん」

「俺は、ギリギリのピンチ、救ってもらいたい、かも」

「ああ、それも、いいなぁ……」

「おい、セラさん、耳いいっていうぞ。聞こえてっかもしんねぇだろ」

「そうだ、やめろ。みっともない」

「かっこつけてんじゃねーよ、お前ら」

「そんなんじゃないっての」

「嘘だな」

「そうだ、そうだ。聞こえてんのわかってって言ってんだぜ、ゼッテー」

「そっちの方がみっともねーぞ」

「なんっだと?」

「なんだよ?」

 セラは小さくため息を吐いた。自分の存在で士気が高まるならそれでいい。だが、開戦を前に仲間割れをされたのではたまったものではない。彼女は足を止め、今まさに言い争いを始めようとしていた二人の間に、花を散らした。

 男たちは息を呑んだ。

「敵は『夜霧』でしょ? どんな理由でも、戦いへの意識が高まってくれるならいいけど、それを向ける矛先を間違えないでね」

「は、はい……」

「す、すいません……」

「それじゃあね。みんな、生きて帰ろう」

「「はいっ!」」

 笑顔で彼らのもとを離れるセラ。後ろからは、彼女とわずかにだが言葉を交わせたという事実を共有した二人の喜ばしい声が聴こえる。諍いをしようとしていた二人が、共通の喜びを分かち合い笑顔になった。周りの者たちもうらやましがったりして、和気あいあいとした雰囲気がその一帯を包み込んだ。

 少し盛り上がり過ぎなんじゃないかと内心苦笑しながら、セラは先に外に出ていた双子を見つけた。というよりは、もとよりノーラ=シーラの気配を目指して歩いていたのだ。

「ノーラ、シーラ」

「あ、セラ」

 シーラが反応し、続いてノーラが彼女の視線の先を指さした。

「見て見て、みんな踊ってる」

 確かに双子の示す方向からは、音楽にのせて戦士たちが雄叫びを上げながら踊っていた。周りで見ている者たちも踊るまでいかずとも、身体を揺らしている。

 その猛々しい旋律に、セラの鼓動も速まる。周囲の人による熱気とは別に、ほんのりと体が温まり、気分も昂揚してくる。

「これは、キノセね」

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