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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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376:連絡役

 会議は終わり、セラは部屋を出たところでンベリカに呼び止められた。

「セラ。ヌロゥ・ォキャの件、すまなかったな、黙っていて」

 ヌロゥがンベリカの世界の出身者だった。確かに彼女も驚いた。しかし責めようとは思わなかった。

「うーん、確かに言っておいてほしかったかな。でも、ンベリカも言ってたでしょ。どこの誰かは関係ないって。わたしもそう思ってる。ナパスの民も、フェースがいるし」

「そう言ってくれると、気が休まる。……話は変わるが」ンベリカは顔をセラの顔に近付け、声を潜める。「これから評議会への報告があるが。来るか?」

「報告?」

「そうだ」

 ンベリカは先ほどまで参謀会議が行われていた部屋から、離れるようにセラに促す。彼女はそれに従い、一つ廊下の角を折れたところに司祭と共に入った。

「戦況をゼィロス殿をはじめとしたスウィ・フォリクァに残っている賢者たちに報告するんだ。あとは軽く白輝の動向についても話し合ったり、評議会だけの作戦会議なんかもするか。今回するかはわからないが、いつ白輝がその白刃を評議会に向けてくるかもわからんからな」

「そっか。わかった。それならヒュエリさんにも訊きたいことあるし、行く」

「あ、すまん。連絡役はカッパ殿なんだ。通信では不安定でな、カッパ殿を通信で呼び、面と向かって報告することになっている」

「……ぁ、じゃあ厳しいかな。伝言頼んでも、カッパじゃヒュエリさんに逃げられちゃうもんね」

「幽霊について訊くんだろ? 作戦にすらならなかったが、駄目もとでも、伝えておいた方がいい。役に立つかもしれん」

「うん、そうするつもり」

 セラは微笑と共に頷いた。


「いやいや、空気が潤っていてよかぁ。満潮に合わせての休戦は、まことにいろいろと都合がいい」

 セラがンベリカと共に入った部屋には、すでにカッパがいた。二人の入室に気付いて、声を上げたのだ。

 部屋にはテムもいて、独り窓際で沈みはじめた夕日を眺めていた。水面はキラキラと光を反射してまばゆいが、もうじき夜だ。

 評議会のために用意された休養所の奥、こじんまりとした一室。六人掛けのテーブルと椅子のセットだけが置かれただけの部屋。だがそこは白輝のテントの中、天上からはシャンデリア。机と椅子は艶出しされていて、木目も美しい。椅子に限って言えば座面と背もたれに、光沢のある白い革が張られている。

「そういえば、この戦争って海戦はしないの? それに、さっき戦場に出て気付いたんだけど、大砲とか、ピストルとかを全く見てない」

 窓の外を見てふと、セラは口にした。両軍とも、その技術はあるはずだが。

「それには色々理由があるんだよ、セラ姉ちゃん」

 テムがカッパがいる方とは反対側の椅子に座りながら応える。セラはンベリカに促され、カッパの対面に座り、三対一の構図で四人は席に納まった。

「海戦に関していえば、確かに両軍とも船を作る技術はある。でも、白輝はともかく、評議会と『夜霧』は海戦に慣れてない兵士の方が圧倒的に多いんだよ」

「どっちも色んな世界に人種が集まってるから、そうか。でも、それならグースはどうして海戦に持ち込まなかったの? 評議会が参加する前に、海戦で有利に進めようとできたんじゃない?」

 彼女のその質問に答えたのはンベリカだ。「むしろグース殿は海戦に反対したと聞いている。ヴォード殿や他の将軍たちは海戦でいこうとしていたようだが」

「え、なんで?」

「グースは戦争の目的を踏まえてその選択をしなかったんだ」

「目的……。遺跡が埋まってるんだよね、ここ。それのこと?」

「あ、遺跡のこと知ってるんだ、姉ちゃん」

 カッパが頷く。「わしが話したのだ」

「なるほど。じゃあ、そこの話は飛ばして……海戦ってことは船を使う。それを沈め合うことになる。沈めるためには、大砲みたいな兵器を使う。個人で爆発的な力を出せる戦士は三勢力とももちろんいるけど、誰でも高い破壊力を出せるからね、兵器は。でも、その威力が問題になってくるんだよ。衝撃で埋まってる遺跡を崩してしまうかもしれない。そうなったら、発掘作業が大変になるだけじゃなくて、求めてるものが壊れるかもしれないだろ?」

「無窮を生む装置、だっけ」

「さいだ」カッパがにこやかに一つ目を細めて頷いた。それから真剣な表情で続ける。「発掘調査自体、戦争前から難航しておるらしい。より厳しくなっては、進むものも進まなくなる。そこを考えているのだろうぞ白輝の参謀も」

「もちろん地上戦でも同じだからさ、大砲は見てなくて正解なんだよ。ピストルの方は……弓矢もだけど、弾や矢の補充が間に合わなくなって使ってないんだ」

「あとは、ずっと戦っていられるわけじゃない、ってところだろう」ンベリカが肩をすくめてみせる。「誰だって休みは必要だからな。ちょうどよく潮の満ち引きでそれを区切ることが、両軍の間で決まりになったんだろう」

「そっか。ごめん、こんなことに時間使っちゃって。報告して、わたしたちも休まないとだね」

「よかぁ、よかぁ」

「いや、カッパさんは戦ってないだろ」

「さいだな。はっはっは」

 カッパの笑いにみんなつられて、部屋は笑みに満ちた。

 疲労が取れる睡眠とはまた別の、和んだ空気が与えるひと時の安らぎ。

 彼は連絡役ではあるが、同志として、戦に身を置くセラたちを気遣ってくれているのだろう。せめてこの時くらいは張りつめないようにと。

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