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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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375:軍略とは

「第三のパターン。想定した最悪の状況にはならず、本拠への攻撃があった場合。そのときは本拠を守り、旧作戦を適用。一度目で大きく敵戦力を削ぎ、休戦を挟み、畳みかける。第四、最悪の状況にはならず、本拠への攻撃がない場合。この場合は、新旧どちらも使えます。思いのほか攻め込めなければ、旧作戦。順調という表現はしたくないですが、一気に攻勢に出ることができたのなら新作戦を用いて、次で終わらせるつもりです。と言いたい所ですが、実際新しい案を使うのは、第二パターンのみでしょう。敵が本拠に攻撃をしてこないということは、西の敵戦力は中央への増援となるでしょう。そうなれば、いくら最初のわずかな時間に優勢に立ったとしても、無理をしなければ本拠を落とすことはできないと思われます。第二パターンでは無理をしてでも勝利をもぎ取るべきでしょうが、第四パターンでは無理をせず、旧作戦の通りにした方がいいでしょう。予期せぬことが起こった場合を考慮しておくと、無理はできるだけしない方がいいのでね。さて、概ねこんなところでしょう。細かいところは決めてしまわず、戦況に応じて判断するところでしょう」

 誰もが黙って頷く。セラもそれに倣いながら、独り考える。

 グースは敵には死者の即刻蘇生はないと考えているはずだ。大勢の復活も。それらを打ち明けないのは、やはり士気をうまく操るためだろうか。

 最悪の状況があるかもしれないと提示され、それを頭に置いている状態で、最悪の状況ではないとわかったとき、おそらく自分も士気は上がるだろうと彼女は思う。

 第一、第二のパターンは見せかけ。はったり。

 セラがもたらした情報を元に、すぐさま新たな策を考えたという自身の能力を見せるパフォーマンスという側面もあるのだろう。それでもやはり、味方の士気を上げることも念頭に置いている。いわばこれ自体が、彼の軍略の一種なのだ。

 兵士をどう動かすか、敵軍の出かたはどうかなど、戦況を把握して作戦を練り打つ。軍略とはそういうものだと、セラは考えていた。しかし違うのだ。グースは戦場に立つ者たちの心持ちにまで思考を至らせる。戦っているのが人間なのだということを忘れてはいないのだ。

 軍隊という大勢の人間の集まりをいかにうまく操作するか。軍略とは実は、敵に対しての作戦云々の以前に、自軍をどう戦いに向き合わせるかということからはじまるものなのかもしれない。

 自身は安全な場所で、手駒をどう使うかだけを考えているだけの男かと思っていたが、違うようだ。むしろそのような人間だからこそ、あらゆる局面でセラのことをわかりきったような策を講じてくるのだろう。ただ嫌な奴だと思っていたが、彼がセラを見ているほど、彼女は彼ことを全然見ていなかったのだと思い知らされる。だから知略に振り回される。

「一ついいか」

 セラがグースに対しての認識を改めていたところ、ンベリカが手を上げた。

「思い付きではあるのだが」

「どうぞ」

「グース殿は可能性が低いと言ったが、仮にクェトが時間もかけずに大勢を復活させるという最悪の事態になった場合。第一、第二パターンだが、必ずしも敗走しなければならない、というわけではないだろう。……セラ」

 ンベリカはセラを呼び、視線を向けた。

「クェトと直接会って、気配を覚えているか?」

「もちろん、部隊長だって言ってたから特に意識して覚えたよ。……そっか、術者であるクェトを倒せば。そういうことね」

「そうだ。どうだ、グース殿。もちろん、敵も姿を隠すだろう。それでもセラならば、索敵し、なんの隔たりもなくその眼前に剣を突き付けることができる」

「確かに、『碧き舞い花』ならばやってのけるでしょう。それほどまでに、敵ながら信頼を置ける。ですが……『碧き舞い花』」

「なに?」

「あなたは、幽霊を倒す(すべ)をお持ちですか? 彼が幽霊になれると仮定した場合、肉体を死に至らしめても意味がないと思われる。そして、恐らく幽霊としてこの世に残っている状態では、包帯の力はなくならないと推測できます。改めて『碧き舞い花』、肉体を持たない存在を消し去れるのですか?」

「それは……準幽体なら干渉しあえるから、たぶん大丈夫。ぁ、でも、今思えば、クェトが完全に生命活動を停止させて、保存した肉体に戻ってるんだとしたら、それだと完全幽体、なのかな。……もしそうなら、見ることはもちろん、感じ取ることもできない、と思う。そこはヒュエリさんに訊かないと、わたしじゃ確実なことは言えない」

「だそうです、『空纏の司祭』。クェト・トゥトゥ・スが幽霊になることはない、もしくは、その干渉できる幽霊だ、という方に賭けてみるのも悪くはありませんが、私は可能性が低いと思いますし、なによりその策を実行している時間に無駄な死傷者を出してしまうでしょう」

「……そうか。可能なら敗戦の道を減らせると思ったんだがな。忘れてくれていい」

「他に何もなければこの参謀会議は終わりしましょう。作戦を下の者へ伝え、開戦までに少しでも休みましょう。仮眠をとることをお勧めしますよ、なにせ次は夜戦になりますからね」

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