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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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365:厄介な真実

 敵は反応できていない。

 首を落とし、勝敗が決する目前。

 セラは素早く後退した。

「なに、をっ……!?」

 驚いたことに、フォーリスは自身を莫大な量の魔素で押さえつけたのだ。それも完全に自身がぐしゃりと潰れる程の力で。

 セラとの相打ちを狙った行動。

 にしてはお粗末なものだ。彼女を捕縛してからならばともかく、動ける状態であれほど大きな力を感じて避けない者などいないだろう。

 それに、彼はホワッグマーラ、特にマグリアに対して強い憎悪を持っていた。理不尽な逆恨みだが、殺意を伴うほどのものを。

 そんな人間が、大会参加者の一人を相手にしているからと言って、今ここで命を投げ出すだろうか。負の感情とはいえ、志半ばだというのに。

 疑問をお供に、セラはフォーリスの様子を見に近付く。明らかに気配は消えているが、念のために警戒も連れ立って。

「……」

 真っ赤に染まった人型の包帯を見つめる。「こんな、終わり方って……」

 オーウィンを納めず、他の場所へと感覚を向ける。まだ、白輝・評議会側が劣勢なことに変わりはない。

 厄介と言われたフォーリスが亡き者になった今、状況を覆す好機としたい。いいや、しなければとセラは平たい死体に背を向けた。

 ッドッド……ッドッド……ッドッドド……。

 グギッ……ググ……ブチチ……ピチュ……。

 背後からの生々しく不気味な音。セラははっと振り返る。

「っ!?」

 そして映った光景に、驚愕する。

 包帯の中身が、厚みを取り戻している。隙間から血を噴き出しながら、徐々に、形を成していく。

 わずかに湿り気を帯びた風が、血生臭さを彼女の鼻に運んでくる。

「何……?」次第にフォーリスの気配も戻ってくる。「嘘でしょ……」

 血溜まりに、魔闘士が立つ。首を左右に傾け、コキコキと鳴らした。

「逃し……たか」

 完全に元通りの包帯男へと戻ったフォーリスが、彼女を振り返る。

「もう一度だっ!」

 開き切った瞳孔で睨みつけながら、セラに向かって飛び掛かってくるフォーリス。セラは後退しながら剣を構え、鎧のマカを纏った魔闘士の拳を受け止めた。

「厄介って……こういうことっ?」

 彼女は厄介なのは彼がマカを使うことだと思っていた。

 ホワッグマーラは『夜霧』や『白輝の刃』が攻め込まないほどに力のある世界。そんな世界の技術であるマカは、その存在だけはそれなりに知れ渡っている。だが他世界人が習得することも稀で、なかなかに他世界が研究できるものではない。だからこそ、慣れない者では戦うのが厄介。そういうことだと、思っていた。

 しかし、違ったのだ。

「一番大事なこと」フォーリスを弾き、距離を取るセラ。「説明してないじゃない、キノセっ」

 フォーリスが厄介なのは、倒れないということ。死んでも生き返るということ。

 包帯男は確かに今さっき、彼女の目の前で命尽きた。確実に。

 そしてこれまた確実に、復活した。

 原理は不明。だが、あの包帯に何かある。そうセラは考えた。そして、もう一つ、思い至ったことがある。相対する魔闘士は、ホワッグマーラ人が異世界でマカを使うために絶対に必要なものを所持していないのだ。

 魔素タンク。

 自分が当たり前にマカを使っていることで、失念していたが、セラのような異界人は特殊なのだと思い出す。以前、ヒュエリが異世界でも魔素が存在している場所もあると言っていたが、このウェル・ザデレァで彼女の感じられる範囲で魔素は存在していない。

 それにドルンシャ帝には及ばずとも、追随するほどの力をフォーリスは身に着けている。彼が復讐心を糧に努力をしたのだとも考えられるが、疑わしくなってきた。

 それもこれも、あの包帯によって引き起こされている現象なのだろうと結論付けられる。敵は包帯以外に所持しているものなどないのだから。

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