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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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35:四つの表示

 セラは自身と『夜霧』について彼らに話した。追っていること、復讐のこと、それはもう、奴らの情報を知りたいがために真摯に、詳しく語った。

 ジュランをはじめ、部屋にいた四人はセラの真剣な表情に黙って彼女の言葉に耳を傾けた。そして彼女の想いをしっかりと受け取った様子で最初にジュランが口を開いた。

「そう言うことなら協力してやろう」

 その言葉はセラが彼と出会ってから聞いた言葉で一番真面目さを帯びていた。

「うー、セラ、すごいよぉ~。健気だよぉ~」ジュランの隣にいたエリンはつり上がった目を潤ませてうんうんと首を上下する。そして、セラの手を取る。「あたし、友達になってあげるよぉ~」

「ぁ、うん……。え?」

 エリンに対して困惑するセラをキテェアが優しく包み込む。「セラちゃん。ここを第二のふるさとにしていいのよ」

「あ、ははは……」セラはさらに困惑するばかりだった。

「ジュラン、セラのことは俺がみんなに話してくる」

 プライは長い髪を揺らすと壁から離れる。その背中、腰の上あたりには一対に羽が畳まれていた。

「ああ。面倒だし、お前に頼むよ、プライ」

「ふんっ、まったく」プライはクールな顔を少しばかり綻ばせて部屋を出て行った。

「あ、そういえば、ここは? 外に雲が見えるんだけど……」

 セラはプライが出て行き、エリンが手を離し、キテェアが離れると窓の外を見て訊いた。

「ああ、ここは三部族を纏めようって奴らが集まった砦だ。空に浮いてる。あー、面倒だ。キテェア、エリン。説明しといてくれ。俺は寝る」

 ジュランはそう言うと外套を持ってベッドに向かう。

「おう、そうだ。こっちも協力するんだ。お前も俺たち回帰軍に協力しろよ。もちろん、怪我が治ってからの話だ」

「協力? こっちも協力してもらうんだからいいけど……何をするの?」

「ふあぁあ……二人に訊いてくれ」

 ベッドに横になったジュランは外套を被り、そのまま寝入ってしまった。

「セラ、あんなぐうたらオヤジなんてほっといて行こう! この砦を案内してあげるよ! ほら、キテェアも」

 エリンに手を引かれるまま、セラとキテェアはジュランの部屋をあとにした。


「ここがあたしの部屋」

 エリンがセラを始めに案内したのは自分の部屋だった。エリン部屋には何かの設計図や工具、それに何に使うか分からないような何かの部品で散乱していた。

「あの黒い棒を調べたのはあたしなんだ! あれ、すごい技術なんだよ! って、セラは知ってるか?」

「ううん」セラは首を横に振る。「詳しくは知らない。教えてくれる?」

「いいよ、いいよ! あの棒はね、行先を指定してカチッて回すだけでその場所に続く道をつくるの。すごいでしょ!」

「……」

 セラは返す言葉に悩んだ。エリンが話した内容は大体セラが知っていることそのものだったからだ。

「エリンちゃん、セラちゃんはそのくらいは知ってるんじゃないのかな」考え込んだセラに助け舟を出すようにキテェアが口を開いた。「もっと、どういう仕組みかとか、そういうことを知りたいんじゃないかな?」

「え? そうだったの!? あ、そ、そうだよね。分かってる、分かってる。分かってるよ。もちろん。えっとね、仕組み、仕組みよね。ちょっと待ってて」

 動揺を隠せないエリンはあたふたと煩雑な部屋をさらに荒らし始めた。それから間もなく一枚の紙を探し当て、セラの前に広げて見せた。それは黒い棒の、ロープスの内部構造がきれいに描かれた図面だった。

「これこれ。あの棒の中に四つ表示があってね。そこの数字を変えると行ける場所が変わるの。左の二つ何を表してる数字か分からなかったからいじらなかったんだけど、正解だったみたい。さっきのセラの話しでこっちの二つは世界の場所を表してるって気付いたの。いじってたら、ジュランが変な世界に跳んでかもしれない。あはは!」

「エリン、笑い事じゃないよ。わけも分からないところに跳ぶのは危ないの。その数字はいじらないで」

 ロープスの内部構造が分かったところでセラは『異空の賢者』の弟子として、異空間移動の危険を真剣に訴える。その真剣さに押されて、エリンは身を小さくして頷いた。

「さ、次は食堂にでも行きましょうか。二人ともお腹空いてない?」

 場の空気を和ませるように、キテェアが微笑みながら言った。

「言われてみると……」

「うん! そうだね、じゃあ、食堂へレッツゴー!」


 昼時を少し過ぎた時分だったが、食堂にはそれなりの人数がいた。

 食堂とはいうものの、そこは砦の仲間たちの談笑の場として食事時以外でも賑わっているそうだ。

 キテェアが三人分の食事を取りに行っている間にセラとエリンは空いていた席に着いた。すると、周りにいた人たちがセラの存在に気付いて二人の座った席を囲んだ。

「おお、この子がプライさんが言ってた」

「本当に三部族の人間じゃねえんだな」

「ジュランさんが助けたって聞いたぜ」

「なんでも故郷を焼かれたってよ」

「スカート穿いてっけど、本当に戦えんのか?」

「こんなかわいい子が復讐かぁ~。世知辛い世の中だぜまったく」

「黒い奴らとは仲間じゃねえってよ」

 羽根っ毛を持った男、鼻の横に切れ目を持った男、獣の耳や尻尾を持った男、様々な種類の人間がいるが二人を囲んでいるのは全部男だった。エリンが「おい、お前ら、邪魔だ。バーカ、バーカ」などと文句を垂れるが男たちはそんなエリンの反応を和やかに笑って流した。それでエリンがさらにぷんすかすると、男たちはさらに和やかに笑うのだった。

「皆さん」そこへキテェアの声が通った。すると、男たちはゲッとした表情で数歩退いた。空いたスペースを三人分の食事が乗ったトレーを持ったキテェアがゆったりと歩いてくる。「女の子に寄ってたかって、気持ち悪いですよ」

「キテェアさん……」

 男の一人が言うとそれを合図に男たちは食堂をそそくさと出て行った。

「さ、食べましょう。食べながらで悪いけど、この砦のこと、わたしたちのこと、セラちゃんに協力してほしいこと、話すわね。静かになったことだし」

 食堂は数人を残し閑散としたものになっていた。

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