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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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357:ヌロゥ・ォキャ再び

「その美しき輝き、ここまで絶やさなかったこと礼を言おう。そして、ここで、俺が消す」

「あの時とは違う。わたしも状況も」

 二人の鍔迫り合いが長く続くことはなかった。

 ヅォイァと、そしてもう一人……。

 八つの翼と共に三蒼を導く英雄。ジュラン・コフェノーズ。

 その二人の攻撃により、セラからヌロゥが剥がされる。

「なんだかんだ久しぶりだな、セラ」

 ヌロゥを追って飛んできた懐かしき気配は彼のものだった。彼はセラの隣に降り立つ。

「プライさんは?」

「おい、いきなりプライの話かよっ。俺との久々の再会に思うことはねーのかよ」

「うーん……」

「……ガキが。プライは来てない。留守番だ。主力全員がここに来ちまったら、白の奴らが何かしでかすかもしんねえからってな」

「知り合いの様だな、その翼の御仁も。あの隻眼の敵も」

 ジュランと共にセラを挟むように、彼女の反対隣りにヅォイァが並ぶ。老人の双眸はのらりくらりと佇むヌロゥを捉えて離さない。

 セラもジュランとの冗談めいたやり取りをやめ、敵を見やる。「『碧き舞い花』の名付け親」

「ほお」

「あいつ、お前が空に跳んでんの見てわき目も振らずここに来たんだぜ。つかお前、高いとこ好きだよな」

「別に好きなわけじゃない。集中して、ジュラン。来るよ」

「いっちょまえに命令すんなよ、ガキ」

 軽い口調とは裏腹に、引き締まった表情で細身の剣を構えるジュラン。セラとヅォイァもそれぞれに武器を構える。

 歪な剣の切っ先で砂上に線を描きながら、ヌロゥが三人に迫る。

 ヅォイァが二人の前に出て、初撃を受け止める。その間にジュランは羽ばたき、空へと翔けあがった。セラはヅォイァの背後よりヌロゥの脇へと出て、オーウィンを振るいにかかる。

 ヌロゥは歪んだ剣の形状をうまく利用してヅォイァの体勢を崩させると、蹴飛ばし、セラに対応する。

 オーウィンを潜り躱し、セラの腕を抑え込み切り返しを妨げると、彼女のサファイアに向けて歪な切っ先を突き向ける。今まさにセラも隻眼となろうとしたその瞬間、空からジュランが襲い掛かる。

 ヌロゥがセラを突き飛ばし、その反動で後転してそれを躱す。突きとばされたセラは上手いこと受け身をとると、立ち上がりざまにナパードでヌロゥの背後を取った。

 が、敗北の記憶よろしく敵と目が合った。

 しかしあの時のように首を掴まれることはなく、そこから二人は激しく剣を打ち合い始める。そこにジュラン、ヅォイァと加わり、四人の攻防は激しさを増してゆく。

 にもかかわらず、互角。

 三対一だということを忘れさせるような、ヌロゥの余裕のある身のこなし。

 セラが月日と共に成長したのと同じように、その時の流れは彼をさらに強き者へと昇華させているのだ。ここまで外在力を纏うことなく戦っているのもその証左となるだろう。

「くくく……」

 唐突に喉を鳴らすように笑うヌロゥ。激しく白刃が飛び交う最中とは思えない、平静な息遣い。まったく息を上げない彼が、くすんだ緑の右目を向けたのは、長引くやり取りに息を上げ出した老人ヅォイァだった。

「あのときの老いぼれに比べればマシだが……。やはり、どれほどの強者だとしても寄る年波には勝てないものだな」

 ジュラン、セラと二人の攻撃をのらりくらりと順々に躱すとヌロゥはヅォイァの懐に入った。

 対して、敵を懐に招いてしまったヅォイァだったが、そこは熟練の戦士。うまい具合に棒を身体の前に滑り込ませ、ヌロゥの剣の通り道を塞ぐ。その間に身を退き、距離をとろうとする。

「くくっ、尊敬に値する身捌きだ。が」

 ヌロゥは塞がれた道にそのまま剣を向かわせ、刀身のくぼみに棒を引っ掛けた。

「なん、っと!」

 ヌロゥが腕をぐるりと返すと、ヅォイァの手から棒がするりと抜け、大きく弾き飛ばされてしまった。

「老いぼれには早々に退場してもらうっ!」

「若僧め……だが、甘いっ!」

「なにっ!」

 今度はヌロゥが驚く番となった。

 弾き飛ばしたはずの棒が老人の手の内に、ナパードのように一瞬にして戻って来た。デルセスタ棒術、蛙尾だ。

 我が身に迫りくる歪んだ刃には目もくれず、ヅォイァはヌロゥの肩口を突き返した。

 体勢を崩す敵。すかさず舞い花と八羽が背後に駆け出す。セラは低く、敵の脚を。ジュランは足を地から離し、首を狙う。

 二人がほぼ同時に剣の届く範囲まで到達する間際、セラは頬を自らよりも早くヌロゥのもとへ向かう空気の流れを感じた。

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