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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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356:高揚感と悪寒

「セラっ」

 砂埃が落ち着くと、ズィーが駆け寄ってきた。

「マジか、やったな!」

「うん」セラはわずかに息を荒くする。「上手くいって、よかった」

『夜霧』の将への勝利による高揚感。

 己がそれほどまでに力をつけたことの証明であり、これまでの鍛錬の成果であるそれが、今、足下に転がっている。

 この時ばかりは、彼女の頭の中から命の尊さの観念が消え去っていた。

 人を殺めたというのに、微笑む。抑えようとしても、口元が自然と緩む。自分が自分ではなくなってしまったのではと、頭の奥深くで、まるで自分の考えではないかのように浮かぶ。だがそれも高揚感に押し沈められる。

 ただ、野獣の死体を見下ろし笑みを零す。

「おい、セラ?」

 そんな彼女を心配したように、幼馴染は彼女の顔を覗く。

「ぁ、ごめん。ちょっと、不謹慎だけど嬉しくて。初めて、『夜霧』の部隊長を倒せたから」

「いや、別に不謹慎とは思わねえよ」

 あっけらかんと、さも当然と言わんばかりのズィーの言葉にセラは虚を突かれた。戦士の先輩として諌められると思っていたが。

「え?」

「ここは戦場。多くの命が散る場所だし、戦争してる以上、敵を殺すのは当たり前だ。むしろ褒められるようなことだ。ただ――」

「ただ?」

「浮かれるなよな、セラ」ズィーはいつになく真剣な眼差しでサファイアに訴えかける。「まだ戦いの最中だからよ」

「……。わかってるよ。もちろん」

「命のやり取りの連続だ、戦争は。ひとつひとつの戦いが終わるごとに考えてる暇なんてない。敵味方なくさ、散った命に対して考えたり感傷に浸ったりすんのは最後、全部終わってっからだ」

 ズィーは最後にセラの背中を叩いて先を歩きはじめた。

「ほら、行くぞ。この勢いのまま他の将も倒しちまおうぜ」

「……」

 セラは顔を引き締める。彼のおかげで普段の自分に戻れたようだ。そして冗談だと分かりきっている彼の言葉に軽口を返す。

「さすがにそんな簡単にはいかないでしょ」


 それからセラは少しに間ズィーと共に雑兵たちを散らした。そしてまた別の窮地を救うために、彼と別れ、ひとまずヅォイァと合流した。

 老人はすでにテムのもとを離れ、主人のもとへと向かっている最中だった。そこへセラの方から現れた形となった。

「さて、ジルェアス嬢、次はどこへ?」

「うん、やっぱり西が危ないみたい」

 ヅォイァとセラは襲い掛かってきた『夜霧』の兵をいとも簡単に蹴散らしながら、最低限の会話を済ます。テムがどうのという話を一切しないのは、戦場を駆けるヒィズルの剣士の気配を感じ取れば、話すまでもないからだ。

 そうしていざキノセのいる西の戦線へと二人が跳ぼうとした、そんな時だった。

 セラは背筋にひやりとしたものを感じた。

 何かが触れたわけではなく。超感覚と気読術が悪寒を生じさせたのだ。ぬらっとした悪寒。殺気がその主と共に彼女めがけて、駆けてくる。

 そしてその後ろに、懐かしき、頼もしき気配も翔けてくる。

「来る」

 ヅォイァも当然その気配を感じ、セラと二人で、向かってくる方角に視線を向ける。

「ぁあおきまいばぁなぁぁっ!」

 ぬらりと振るわれた歪な剣に、セラはオーウィンを交えた。

 剣越しに。

 くすんだ緑色の髪が。

 閉じられた左目が。

 粘っこい笑みが。

 そこに。

「ヌロゥ・ォキャっ」

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