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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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34:スカート

「キテェア、入るぞ」

 ジュランは扉をノックすることなく部屋の中に入っていく。

「ちょっと、ジュランさん、またぁ。ノックをしてくださいよ、あら? その子は……怪我してるのね」

 突然入ってきた仲間を説教しようと頬を少しばかり膨らませて振り返った獣の耳と尻尾を持つ女性は、仲間に支えられている少女の存在を認めると、視線を瞬時に脇腹とふくらはぎに向けた。そして、その優しげな顔をキュッと絞めて長い髪をシュシュで一纏めにすると、てきぱきと手際よく何やら準備を始める。

「ジュランさん、その子をベッドに」

「ああ」

 セラはジュランに支えられながらベッドに腰掛けた。それを見るとキテェアは準備をしながらジュランに言う。「ジュランさんは外に」

「え?……ああ」ジュランは一瞬驚いたがセラの方を見ると納得して、肩を竦めると黙って部屋を出て行った。

「服、一人で脱げる?」キテェアは部屋の扉を閉めながらセラに訊く。

「あ、はい」セラは応えると少しばかり痛みに耐えながら、荷物を降ろし、服を脱いで下着に包帯だけを纏った姿となった。もちろん、『記憶の羅針盤』と水晶の耳飾りは標準装備だ。

「じゃ、まずはお腹の方から見ていきましょうか。包帯取るわね」

 キテェアはそう言うとセラの腹部に巻かれた包帯を取り始めた。

「ピストルで撃たれたのね。痛かったでしょ?」

「ええ」セラはこの時初めて男たちの使っていた武器がピストルというものだと知った。

「それにしても、なかなかしっかりとした応急処置ね。ジュランさんがこんなことするわけないし、あなたが? そういえばお名前は?」

「セラフィ。セラでいいです。処置は自分でやりました。薬草術の知識があるので」

「そう」キテェアは聞きながら脇腹の傷口付近を触る。「ちょっと、痛むわよ」

「……ぅっ」

 キテェアは少し強めに傷口の周りを押した。その痛みはマカを丹田に流し込まれるのに比べれば痛いものではないが、痛みというものには慣れというものがない。地味な痛みは彼女の顔を歪ませる。

「うーん、球が中に残ってるわね。こっちは……」

 キテェアは次にふくらはぎの包帯を外した。「こっちは、貫通したみたいね。よしっ」

 納得したキテェアはセラにベッドで横になるよう促した。そしてこれから行う処置についての説明をする。ふくらはぎの傷は塞ぐだけで終わるが、脇腹は一度切り開いてピストルから放たれた鉄の球を取り除かないといけないということ。

「女の子の体に傷は残さないわ。わたしを信じてくれる?」

 セラはここまでの彼女の手際の良さを見て、この人なら大丈夫だと感じ取っていた。だから、静かに頷く。

 それから数時間ほどでセラの処置は終わった。

「傷口が開かないように何日かは安静にしててね。剣を持っているようだけど、戦っちゃ駄目よ?」

「はい。ありがとうございます」

 新しく巻かれた包帯はセラの肌に同化して見えるほど白くきれいに巻かれ、キテェアの腕の良さを体現していた。

 セラが服を着ようと手を伸ばすと「待って」とキテェアが彼女やジュランたちが着ている、薄く編まれた生地が何層にも重なってできた服を持ってきた。手渡されるまま、セラはその服に腕を通した。刺繍が施されたシャツとスカートだった。

「これ、温かい」

「雲海織りでできてるの。丈夫なうえに着心地がいいのよ。似合ってるし、よかった」

「……似合って、ますかね」セラは下半身をソワソワさせていた。それもそのはず、彼女がスカートというものを穿いていたのは意識がはっきりしていない幼子の時と、ズィーと会わず、城内で薬草術の勉学に励んでいるときだけだ。しかも、城内で穿いていたといっても、外に薬草採りに出ることの方が多かったセラだ。ほとんど穿いたことがあるという記憶はなく、気恥ずかしさと、妙な不安感を覚えていた。「あまり、スカートなんて穿かないんで……」

「あら、そうなの? じゃあ、ここにいる間だけ、それでいてくれる? この砦、男の人ばっかりでむさ苦しいから」

「ま、まあ、ここにいる間だけなら……」

「うん、ありがとね、セラちゃん」


「ほぉー。なんか、気品溢れるお姫様みたいじゃねえか。エリンとは大違いだな」

 キテェアに連れられ、セラはジュランの部屋を訪れた。そこには吊り目の青髪少女のエリンもいた。そしてもう一人、女のように長い蒼白の髪を持ち、耳の上に羽根っ毛がある男が壁に寄りかかっていた。その腰にはジュランのものと同じような細身の剣を二本差していた。

 ジュランは入ってきたセラのスカート姿を見て気品を感じたようだが、エレ・ナパスの姫であるセラにとってそれはあながち間違いではない。

「ちょ、ジュラン! このエロオヤジ! バーカ、バーカ、バカオヤジ!」

「…………文句があるならしっかり言え、エリン。それではただの悪口だぞ」長髪の男はエリンを憐みの目で見つめて言った。

「なっ! そんな目で見るなっ! プライのバーカ! アホ! バーカ!」

「……だからな。はぁ……やめだ」

 プライと呼ばれた男は呆れて溜め息を漏らすと腕を組んで黙り込んだ。

「ほら、みんな、セラちゃんが困ってるわよ。ジュラン、セラちゃんが訊きたいことがあるって」

「おう、そうだったけか?……ああ、そうだったな。面倒なことは忘れやすくて困る」

 ジュランは机に脱ぎ捨ててあった外套からあの黒い棒を取り出した。

「これについて訊きたいって? まあ、座れよ」

 ジュランは棒で自分の対面の椅子を示した。頷いて、セラはそこに座り、隣の椅子にはキテェアが座った。

「『夜霧』、黒い奴らから盗んだって言ってたけど、奴らと会ったの?」

「会っただ? あいつらは突然現れたと思ったら色んなところで戦を起こす。俺らにしたら迷惑な奴らだ。だから、密かに調べて、使ってたこいつを盗んだ。調べたらまあ便利な道具だったってわけだ。はあぁめんどくせ、こちとら、三部族だけでも面倒だってのによ。お前、あいつらの仲間じゃないってな、どういう関係だよ」

「敵よ」セラは芯のある瞳でジュランの蒼白い瞳を見返した。「ふるさとを焼かれた」

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