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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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359/535

354:勝利の光景

 斬り上げを交えたセラの攻撃により、二人はゆっくりと落下していった。

 そうしてもうじき大地に辿り着く、その時だった。

「んん゛っ……が、はは……」

 獣人が苦痛に耐えながらも、笑った。

 傷ついた箇所の周辺の毛は血によりまとまり、束を作っていた。空気が乾燥しているためか、すでに最初の頃に出た血は乾いているようだ。べったりという印象は受けない。

 セラが野獣を大きく消費させているのは、気配を感じるまでもなく出血の量を見れば明らかだ。

 それなのに、笑ったのだ。

「ぐるはははは……」

 ガルオンはまさに野獣の如く、喉を鳴らし、低く唸るように笑い続ける。

 嫌な予感がする。勘の技術とは関係なく、セラの頭にじんわりと浮かびあがるそれ。それを克明にしたのは、不敵に笑むガルオンの一言だった。

「休戦中、ルルに血をせがんだのは正解だったぜ」

「っ!?」

 セラは着地前にガルオンから離れた。ナパードでズィーの隣に。

「どうしたんだよ」ズィーは訝しむ。「まだ攻撃できたろ?」

「あいつ求血姫の力を持ってる」

「求血姫?……ルルフォーラ、だっけか」

「そう。血を流すほどに強くなる」

「なんでそんなこと分かるんだよ。俺、お前より気配感じるの下手だけど、あいつが強くなったなんて感じねぇぞ」

「『夜霧』は闘気の技術を持ってる。抑えてるのよ」

 と、その時。ガルオンがセラに遅れて砂上に落ちた。受け身は取らず、落ちるに任せた体勢で。

「いでぇ~……」痛みは感じているようであったが、のっそりと立ち上がる野獣。「あいつは俺にはこの力は使えないと言ったが、問題なさそうだ」 

 頭を守っていたことで血の付着が少なく済んだたてがみを掻き上げる。

「やっぱ当たるぜ、俺の勘はっ!!」

 ズィーが表情を厳しくする。「マジかよっ……!」

 たてがみを掻き上げると同時に膨れ上がったガルオンの闘気。セラが与えた負傷を上回る力が、野獣に宿っていた。

 それでもセラは冷静だった。冷静に推測を口にする。

「やっぱり、ルルフォーラは血を吸って能力を手に入れるだけじゃないのね……。これまで『夜霧』の奴らが翻訳の道具を使わずにどうやって会話をしてるのか不思議だったけど、同じ言語の世界の血を共有してるんだ。求血姫の技術の応用で、他人にも能力を付加する……弱い(・・)勘だけど」

 勘の技術は知り得ている情報が多いほど精度が上がる。『多くの見聞を持つ者の勘は、驚異となりうる』というホーストロストの言葉もここからきている。

 ルルフォーラによる能力付加。

 今回は、セラがルルフォーラとの二度の対峙により知った、流血による能力の向上と吸血による能力の吸収。それから『夜霧』の者たちが翻訳の魔具のような器具を介さず普通に会話ができていることという、多いとは言い難い情報を元に導き出した勘だった。だから弱い勘なのだ。

「そんなこと言ってる場合かよ」

 ズィーは状況に正しい判断として身構えるが、セラは緊迫気味に碧花乱舞を終わらせたわりには平然としていた。ズィーのもとに戻ってから今に至るまで、徐々に落ち着きを増していった。

「がはは、その勘は正解だぜ? 『碧き舞い花』」

 セラからの攻撃を耐えるために縮こまらせていた体。ガルオンはそれをほぐすように肩や首を回す。

「話すってことは、お前の勘はわたしたちを殺せるっていってるわけね」

 気配や状況だけを鑑みても、誰もがそう考える。ガルオンの勘は正しいだろう。しかしセラは笑みさえ湛えて、悠然とオーウィンを構えた。

 勝てると勘が教えているから? 違う。勘がないと言えば嘘となるが、確信して勝てる。この時、彼女はそう考えていた。

 彼女は求血姫の技術について考えている間に、思いついたのだ。

 勝利への道筋を。

 ガルオンの異常に驚異的な勘を上回る方法。ここまでの野獣との戦いからの考察。そして、セラがかねてより用意していたルルフォーラに対する秘策。

 勘も含め、セラの中にある技術や情報が、勝利の光景を彼女の脳裏に見せる。

「当然だぜっ!」

 野獣が鋭利な爪と共に二人に迫る。

 セラは一歩前に踏み出す。

「おい」

「ズィー大丈夫だよ。任せて」

「マジで言ってん――」

 ズィーの声はそこで彼女の耳に届かなくなった。

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