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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会
347/535

343:二次会

「ごちそうさまでした。後で支援棟の金庫番の人にこれを渡してください」

 セラはそう言って自身のサインと血判、それから店主により提示された食事の代金を書き記した紙片を差し出した。

 獣の耳と尻尾の付いた店主は「さすがですね。セラさんは」と言ってそれを受け取った。

 食事会はどんちゃん騒ぎになる前に幕を閉じ、今は賑やかな声は店内から、外へと移動していた。

「それじゃあ。美味しかったです」

 再度、店主に言葉を送り店を出るセラ。

「またお待ちしてますよ」という背後からの声に重なって、キノセが声を張った。

「今日はもう、みんな休めよ。明日に備えろ、いいな」

 間延びした声ではあったが、戦士たち全員が唱和した。「は~い」

 散り散りになって店の前を離れて行く。返事の緩慢さとは裏腹に、彼らの足取りは皆しっかりとしていた。意識はしっかりと戦争に向いているようにセラには映った。

「さて、僕たちも帰ろうか」

 ユフォンが提案すると、キノセは顔の前で指を振った。

「何言ってんだ、俺たちは第二幕だ。つっても、賑やかなもんじゃないけどな」

「そう」セラもキノセに頷く。「まだ行先すら聞いてないからね、わたし」

「そっか向こうでの立ち回りとか、評議会全体の作戦とか知らないんだ、セラは。うん、なら僕も付き合うよ」

「良いジャズバーがある、そこで話そう。今度は俺の奢りだ」

「本当にかい?」ユフォンが訝しむ。「今度は僕に振ってきたりしないよね?」

「するか。さっきのはみんなの士気を高めるため。今度は――」

「今度はわたしの士気でも高めるの? 必要ないけど。あ、それとも、全部払わせたの悪いと思ってる?」

 キノセが鼻を鳴らす。「ふんっ、誰が。全然、悪いだなんて思ってない。これっぽっちもな。金持ってるやつが払うのは間違ったことじゃないだろ? でもだ。いいか、ジルェアス。俺はお前に奢られたままってのは嫌なんだよ。だから、これでチャラにする。言ってみれば、俺の士気を上げるためだな」

「あっそ」

「ははっ。全然額が違うと思うけどね」

「うるさいっ、行くぞ。こっちだ」

 ポケットに手を入れて歩き出したキノセ。セラとユフォンはそんな彼のあとに続いたのだった。前を歩く指揮者には見えないように、互いに見つめ合い、微笑み合いながら。


 半円状の天井には切れ込みが入り、薄光が色を様々に変えながら差し込む。その光の揺蕩いに合わせるかのように、優しい音楽が建物中に響き渡る。

 客の着くテーブルはそれぞれが間仕切りで仕切られ、半個室となっている。そのすべてから、店内を音で彩る演奏者たちが立つステージが見える造りになっている。

 ピアノと弦楽器の四重奏が奏でられる中、キノセが切り出す。

「いいか、ジルェアス。戦場となっているのは、大洋と砂丘の世界。評議会共通認識では温湿漠原(おんしつばくげん)。『異空賢者』ふうに言えば、えーっと……」

海と砂(ウェル・ザデレァ)だよ、キノセ」

 ユフォンがナパス語の名称を口にした。それも一文全てナパス語で。それはなかなかに流暢で、セラが目を瞠るとユフォンはにっこりと歯を見せる。

「君がいない間にさ、ゼィロスさんに少しずつ教えてもらったんだ。まだまだだけど」

「ううん、そんなことない。訛りもなかったよ。それなら翻訳の魔具なしで話せるね」

「ははっ、そうなることを目指してるけど、今はまだ会話は難しいな」

「そっか。じゃあ、わたしも教えてあげる」

「頼むよ、ははっ!」

「おい、俺もいるんだが?」キノセが眉を吊り上げる。「雰囲気がいい場所だからって、甘い時間じゃないんだからな」

「……ぁ、うん。ごめん」

「ははっ……」

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