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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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343/535

339:疑わしきは……

「駄目だ」

 その日の夜、部屋を再度訪ねてきた伯父に裏切り者の件を話し終えたセラ。話題を変え、自身も出陣したいと告げた彼女に対し、ゼィロスは黄緑色の鋭い瞳をさらに鋭く細めた。

 と息を吐く。「……と言いたいところだが、それがお前の次の任務だ」

 その言葉を聞いて、セラは表情を明るくして、すぐに引き締める。「はい」

「戦力としてもそうだが、お前には『碧き舞い花』として仲間たちの心の支えとしての役割がある。士気を高める意味でも、お前は行くべきだ」

「うん。そのためにもちゃんと休んでおかないと」

「よし、わかってるな。二日後でいいか?」

「明日でもいいよ」

「駄目だ」

「伯父さん、心配し過ぎ」

「正当な判断だ」

「じゃあ、二日後」

「キノセたちには出発を二日遅らせるよう、俺から伝えておく」

「わかった」

「じゃあ、俺はこれで。裏切り者がいると確定した以上、手を打たなければならんしな」

「どうやって探すの? コクスーリャからは奴らがスウィ・フォリクァ(この場所)を知ってるって事しか聞けてないよ? 評議会のみんなが知ってることだし、まったく絞り込めない」

「そうでもないぞ。すでに多くの情報が流れているということは、最近加入した面々はほぼ白とみていい。それに虹架諸島の一件。奴らの動きは早すぎる。奴らと繋がりを持っていた竜人たちが、すぐに評議会との接触を知らせたとも考えられるが……それで滅ぼすとは考えずらい。彼らもわざわざ俺たちに協力するところまで話すわけないだろうしな」

「待って、それってつまり。ワィバー・ノ・グラドやジュサがわたしたちに『夜霧』の情報を流したこと、これから流そうとしていたことを知ったってことだよね」

「そう。評議会でその情報を知りえる者たちは限られる」

「……あの評議に参加した人たち」

 セラはテングやヌォンテェ、ケン・セイをはじめとした賢者たちの顔を思い浮かべ、俯く。

 そんな姪の肩にゼィロスは手を優しく置いた。

「心配するな。お前が疑心暗鬼になることはない」優しく微笑みかけると、ゼィロスは扉に向かう。「裏切り者がいると確定したことは他の者には通告しない。テングやカッパやヌォンテェにもな。俺だけで調べる。こんな心苦しいことを、お前にはさせないさ」

「……」

「おやすみ、セラ」

「おやすみ、ゼィロス伯父さん」

 パタンッ……――。

 扉が静かに閉められた。

 セラはじっと扉を見つめる。

 ふと、心をよぎる不安。

 伯父に話し、評議会で議題に上がった途端に消滅したスウィン・クレ・メージュ。確かにあの評議の参加者が疑わしい。

 しかし遡れば、エレ・ナパス侵攻。伯父は情報を持っていながら、ビズラスにそれを伝えたのみで自身は出向かなかった。フェースがいたからエレ・ナパスの座標が『夜霧』に知られていたのだろうとも考えられるが、もしも伯父が……。それに評議会の発起人であり、仕切る立場にある伯父ならば、評議会の動向を意のままにできる。そして一人で裏切り者を調べようとする伯父――。

 セラは頭に浮かんだ邪推を振り払う。

 これは違う。

 これは情報が足りないが故のものだ。

 洗面所へ向かい、顔を洗った。

 疑念にすらならない。妄想の類。勘ですらない。

 そもそも伯父が異空のために尽力していることは、セラ自身が知っていることだ。『夜霧』との戦いも、異空史の探求も、そこに偽りはない。

 身内であることから私情を通した、贔屓な見かたであるかもしれない。しかし私情があるからこそ、不安がよぎったとも言えた。仲間たちもそうであるが、それ以上に伯父が裏切り者であってほしくない。だからこそ、あらゆる疑惑を思い浮かべ、潰そうとした。

「こんなことしても無駄だ」

 セラはもう一度顔を洗う。

 これは進んでいるようでいて、実は回廊のように同じところ回っている停滞にすぎないのだ。

 せっかくゼィロスが、セラが悩みに苛まれないようにと一人で背負ってくれたのだ。ここは伯父を信じるのが姪の務めであろう。

 上がった顔に滴る水。麗しき唇が心を固める言葉を唱える。

「止まってなんていられない」

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