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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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338/535

334:意識の底

 目覚めた。

 セラはエメラルドに包まれた空間に立っていた。

 どこを見回しても碧一色。

 ――ここは。

 そうセラが心の内で呟くと、不思議なことにそれは口を通さず声となって空間を反響した。

「えっ!?」

 今度は口を通った驚きの声が、反響した。

 そこに別の声が加わる。「ここはお主の意識の底だ」

 後方からの声。シメナワに憑依する前のヨコズナ神の声だった。

「!」

 警戒と共にセラが振り返ると、そこには彼女と変わらぬ標準的な人の大きさとなったヨコズナ神がいた。

 身構えるセラ。不意に背中に重みを感じた。慣れ親しんだ重みだ。

 不思議に思いながらも手を伸ばし、慣れた手つきで握り、引き抜き、構えた。

 紛れもなく、オーウィンを。

「!?」

 自身で構えながらも、驚愕を隠せないセラ。敵前にも関わらず、愛剣をまじまじと見つめる。

 神が静かに声を響かせる。「その驚き様、無意識か」

「なんだ、ここは!」

 セラの声が反響する。ヨコズナはその声が薄れるまでじっと彼女に目を向けたのち、口を開いた。

「すでに言った。お主の意識の底だと」

「意識の底? わたしの?」

「お主という存在をお主たらしめる場所」

「わたしをわたしたらしめる……?」

「他の人間の邪魔なく話ができるゆえ、我は入り込んだ。さあ、望みを言ってみろ」

「どういう風の吹き回し? 最下層のことは――」

「何を言っている」神は半ば怒りながら言う。「お主は試練を望むのだろう?」

「試練? 何を言ってる」

 ヨコズナは眉を顰め、呟く。「間違いなく力はあるが……こやつではないのか? しかし、そうそういるものではないはずだが……。フェルの予見が誤るか? それこそありえん」

 独り思考に集中する神。

 そんなヨコズナに、セラはオーウィンを構えたまま訝しむ。突然攻撃してくることも念頭に置きながら、様子を窺う。

「……お主本当に、試練を求め我の世に来たわけではないのか?」

 思考をやめ問いかけてきた神の様子は、威厳のない、戸惑いを帯びたものだった。今までの上からの物言いが嘘のように。

「えっ……っと」

 神のあまりの変わりようにセラは面食らい、一瞬だけ言葉に詰まる。

「……わたしは、いま異空で脅威になってる『夜霧』って組織の情報を探るために、ここに」

「『夜霧』……? それはヴェィルと関係のあるものか?」

「ヴェィル! ヴェィル・レイ=インフィ・ガゾン? 知ってるの?」

「ほうっ! お主、ヴェィルを知っておるか! ヴェィルに敵対する、力を持った者で間違いないと見た!……ん? しかし、しかしだ。それならば、なぜ試練を望まぬ。分からぬ、分からぬぞ……。フェルよ、我の頭はそこまで回らんぞ」

「ちょっと、わたしの質問にも答えてよ」

「こやつだが、こやつではない……? もしや! また別の機か! なくはない、のか? ぐぬぬぅ……」

 セラなど眼中になく頭を抱えだすヨコズナ。

「ちょっと!」

「そうだ、この者は今しがた無意識だったぞ。それはつまるところ、自覚がないからではないか? だとすれば試練を望むことはせんだろう。やはり別の機か! ほうほう!」

「さっきから何を言ってる!」

「フェルよ、(たが)っていても我を責めるでないぞ? 曖昧な予見を託すからいけないのだ」

 一人首肯し、納得のいったような表情を浮かべるヨコズナ神。

 セラは訳がわからず、いくつかの単語をかいつまんで訊き返す。

「力とか、試練とか……フェルとか、予見とか、一体何の――」

「此度は、お主を帰すとしよう」

 神が彼女の言葉を遮る。すると、突然の輝き。

「ちょっ――」

 セラはそれに弾かれるような浮遊感に見舞われ、視界も、頭の中も真っ白になった。何が起きたか分からぬまま、彼女の意識は遠のき、途切れた。


 そして再び目覚めたセラは、よく見知った光景と匂いに包まれていた。

 スウィ・フォリクァの自室。

 ベッドに横たわり、オーウィンをしっかりと抱いていた。

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