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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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329/535

325:ちょっと待ってくれよ

 開始の合図と共にセラが、背後を取られた。その大きな体とは裏腹に、彼女の駿馬よりも速くハマヤは移動したのだ。

「!?」

「どうだ? お前の十八番だろ? 渡界人」

 声と共に、まるで大樹の幹のような剛腕がセラに振るわれた。

 側頭を狙うその拳をセラは受け止めるのではなく弾こうと考えた。わざわざ拳に向かい手の甲を振り、闘気の放出の技術を用いる。

 小さく弾かれた剛腕。しかしそれも束の間。

 彼女の細い腕では力を受け止めきれないだろうと、反発することを選んだわけであったが、それをも凌駕する剛力だった。

 再び迫る拳。彼女の腕を超え、パッと開かれる。かと思うと、セラの頭をがしりと鷲掴んだ。

「っぐぅ……」

「ぬる゛いわっ!」

 そのままセラの身体はふわりと浮き上がり、地面へと落とされる。

 刹那。

 地面まであとわずかというところで、セラはエメラルド共に弾け舞った。

「小賢しぃ」

 顔を上げたハマヤと目が合うセラ。彼女はわずかに黄金色にくすむ空だ。

 上空で回転して地に目を向けたわけだった彼女だが、すぐに足下に床の術式を出現させ、後方へと宙返りした。その最中、横目で見るのは空より高速で下降してきたハマヤだ。今しがたまで地に足を着けていたというに、目が合ったかと思った瞬間には彼女よりも高く飛び上がり、反転してきたのだ。

 その速さはセラでさえ目で追えないほどだった。ナパードには遠く及ばないが、かなりの速さだ。彼女が体感したことのあるケン・セイの最高速よりも速いと思われた。

 そして、また。

 着地したかと思えば、すぐに跳び上がった。先程はわざわざ通り越し、さらに上方からセラへ攻撃しようとしていたが、今度は下からそのまま彼女に迫る。

 ステップでは回避不可能だった。

 つまり彼女が取れる選択肢は一つ。ナパードに限られた。

 闘気を鎮静させ、行先を気取られないように、彼女は跳んだ。静かなるナパードの真骨頂ともいえるナパード。イソラ程の感覚がなければ、その行く先を知ることはできない。

 それ故、さすがのハマヤも空中で彼女を見失う。

 とはいえ、戦場は闘技場。行き先は限られる。

 セラは地上だ。

 彼女が空を見上げれば、すでにハマヤも地上に目を向けていた。最初と立場が反転しただけ。しかし、ただ空中にいるところを狙われるのとはわけが違う。セラは相手が降りてきたところで地上戦に戻すつもりだ。

 地上ならば力の差があろうとも、何も出来ないということはない。勝機を見出すことも出来るだろう。

 思考しつつ、息を整えようとしていると、間もなくハマヤが着地した。

「どこに跳ぼうが、逃げ場はないぞ」

「逃げる気はない」

 冷めた顔で、セラを見下すハマヤ。「いっちょまえな意地だ――」

「っ!?」

「――な!」

 言葉が終わるよりも早く、セラは間合いを詰められた。すでに拳が振り向けられている。防御の姿勢に入る彼女だが、体の前で構えた腕もろとも身体を殴り飛ばされる。

「んあっ……」

 軽々と吹き飛び、地面に倒れる。そんな彼女の顔に、追撃とばかりにハマヤの足が迫る。

 転がって躱すと、彼女がいた場所は大きくへこみ、亀裂に囲まれた。セラはそれを見ながらもすぐさま立ち上がり、反撃の拳を振るった。

 ぺちっ――。

 セラの拳はハマヤの頬にきれいに納まった。だが男は微動だにしない。

 闘気は放出した。それなのに敵はびくともしなかった。急激に気配が大きくなったのだ。そのことにセラが驚き、わずかに動きを止めたところを、ハマヤは見逃さない。

「どうしたよ。疲れたか?」セラの腕を潰れんばかりの力で握った。「あの程度の連戦で? その程度の傷で?」

「ぅぁあ゛ぁぁ……」

 あまりの力の強さに、セラは抵抗することも、それこそナパードで逃れることも思い至らず。ただただ苦痛に声を絞り出すことしかできない。

「それとも、もとよりこの程度の力量か。……笑わせる。戦士を名乗るに値せん、弱者め」

「ぐぅんっふぅぅう゛ぅぅぅっんふん゛っふはんん゛っふぅぅぅっんはっっぅ……」

 セラはやっとの思いで呼吸する。瞳には涙、額には脂汗が浮かぶ。

「ふんっ」ハマヤは力を緩めることなく、闘技場の外、エーボシに目を向けた。「エーボシ。終わりだ。こんな下らん戦い、早々に終いだ」

「はい。それでは――」

「ちょっと待ってくれよ」

「なに?」

 横から入れられた声に、わずかにハマヤの力が弱まった。セラは涙に歪んだ視界に、闘技場の外、立ち上がったコクスーリャの姿を捉えた。

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