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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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322:声

 以前ラスドールが言っていたことを思い出す。マカの剣は握っている感触が違うのだと。

 確かにそうだとセラは自らが作り出した、なんの意匠もない剣を一瞥して思った。

 形も感触もオーウィンとは程遠い。相手を殺さないようにと、分厚くすることを意識したことも要因かもしれない。

「さ、続きやろうぜ。長く持たせることできないから」

 考えてる暇はない。セラは剣の形を崩さぬよう意識しながら、棒を構えるヅォイァに向かう。

「わざわざ慣れない戦い方を選び、奇をてらう?……否、剣を持ってこそお前の真価か」

 棒がマカの剣を受け止める。すると、マカの剣の姿が揺らいだ。ホワッグマーラの魔闘士のようにはいかない。実体をしっかりと保っておくことは難しいものだった。

 攻撃したはずだったが、体勢を崩す羽目になってしまった。

 その隙を棒使いは逃さない。軽くセラを押し返し、その腹を蹴ると棒を突き出す。セラはそれを剣で受け止める。

 が。

 身体を突き抜ける衝撃があった。まるで槍で貫かれたようだった。

「ぅがっ」

 よたよたと後退るセラ。その手から、マカの剣が消えた。そして、腹を押さえると、手はまたも血に濡れた。

「今のはデルセスタ棒術、鳥牙(ちょうが)。まだ二つ目だが、終わりにするかな?」

「まだまだっ!」

 立ち上がりざまに剣を再び作り出し、駆け出した。と見せかけて、背後へのナパードだ。

 だがそれは読まれていた。棒を地面に突き立て支えにしたヅォイァの蹴りが、今さっき付けられた傷に的確に入った。そのように周りの人間には見えただろう。

「壁……」

 正確に狙われると事前に感じ取ったセラは、傷の前に障壁のマカを張ったのだった。

 反撃を防いだ彼女はすかさず、再度花を散らし、今度こそ敵の背後を取った。まず、棒を蹴り倒し、ヅォイァの体勢を崩す。マカの剣を逆手に持ち、命を奪わず、試合に勝つための最低限の箇所を狙い振り下ろす。

「ぁ……!?」

「んなんと……!?」

 両者ともに、観戦する者も含めて呆気にとられたことだろう。

 決着の時と思われたその瞬に、彼女の手から剣が姿を消したのだから。

「やべっ……」

「やはりその実態なき剣は不慣れなことに変わりなかったか」

 セラから相手と距離を取る。ヅォイァは続いて立ち上がり、棒を構え直す。

 終了の機は去り、仕切り直し。

「正真正銘、武器を持つお前と戦ってみたかった。この地でない場で会いたかったな」

「勝った気でいる? なら、まだ早いだろ」

 セラは剣を作ることをやめ、拳を構えた。

「ほほう、諦めの悪いのは嫌いじゃない」

 ヅォイァが迫ってくる。

 強がっては見たものの、セラにできることはナパードを織り交ぜた基本的な攻防のみ。棒を受け、拳を返す。

 その間も当然、ヅォイァのデルセスタ棒術が炸裂する。

 見えない斬撃、蛇爪。飛び、貫通する突き、鳥牙。それから、一瞬視界から棒が消える、魚腕(ぎょわん)という技まで繰り出してきた。

 次第にそれぞれの技を避けることのできるようにはなってきたものの、誰がどう見てもセラが押されていた。

 勝てても五戦。昨夜、コクスーリャが口にし、セラもそう感じていたことだった。甘く鑑みての見立てだということは分かっていたが、三戦目に勝てるかどうかという状況に彼女は落ち込まざる負えない。

 せめてオーウィンがあれば――。

 フクロウと共にあれば、先ほどの機を逃すことはなかった。身体が剣を欲する。そう思えど、彼女には愛剣をその手に呼ぶ術はない。

 戦いから意識が逸れていた。

 棒のみでくるか、見えない刃が出てくるかの判別ができ、発動した場合にもその範囲がわかり、躱せていた蛇爪。その見えない刃がセラの頬を斬った。

「……っ」

「心ここにあらずだな。とうとう諦めるか。ならば――」

 ヅォイァがセラから離れた。

「――最後に獅子羽(ししばね)を見せて終いにしよう」

 言って、彼は自身の前で棒を回しはじめる。かなりの速さに、闘技場の空気が動き始めた。彼の棒に集まっているようだった。まるで外在力を見ているようだと、セラはただ立ち尽くし、ぼんやりと思った。

 ちりちりと傷口を舐めていく風を感じる。

 ――こんなとこで止まってる場合か?

 外在力の想起から、『紅蓮騎士』の声がした気がした。

 ――教えてもらうだけってのは、やめたんだろ?

 次いで聞こえたのは『世界の死神』の声。そのまま続く。

 ――剣だけじゃないだろ、背負ってんのは。ビズラスの受け売りだけど、教えてやったろ?

 まるで本当に語り掛けられているかのように、彼の言葉が頭に伝わってくる。ズィーの声は明らかに自分の妄想だった。それでも、エァンダの声は今まさに話しているかのように彼女は感じていた。

 ――背中に重みがないからって、何も背負ってないわけじゃない。ビズなら諦めないぞ。もちろん俺もな。

 叱りつつも挑発すような声。セラはわずかにムッとする。

「……諦めるわけ、ない」

 ――……ふっ、だよな。俺もそう思う。……お前と話せてよかった。ま、待ってろ……もうすぐ………………。

 そこで声は途絶えた。

「最後の最後に息を吹き返す……心が折れたようにも見えたが、立ち直したか。戦士の鑑と言えよう。……ならば戦士として、礼を尽くし散らせてやろう」

 当然、ヅォイァにはエァンダの声は聞こえていなかった。ただただセラが最後まで戦士の意地を見せるのだと映っただけだ。

 そして彼は残像で円盤へと姿を変えた棒を、セラに向かって投げるのだった。

「くらえっ、獅子羽!」

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