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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第二章 賢者評議会

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325/535

321:楽しむ老人

「続いて、東、ヅォイァ・デュ・オイプ。前へ」

 エーボシの早口な口上。傷だらけの彼女に休む間も与えたくないらしい。

 そうしてセラの前に立ったのは、うねる髭を持つ年老いた男。背筋がピンと伸び、傍らには自身の身の丈より半身ほど長い棒を携えていた。

「鍛錬に鍛錬を重ねて得た力、失うわけにもいかず。かといってこの世の理に門外漢の俺が口を出すわけにもいかず。郷にいては郷に従えということだ。……若い者の命を奪う趣味はないが、手心は加えん。恨むでないぞ。むしろ、楽しませてくれよ、この老いぼれを」

 気配は他の第一階層の者たちと同じように、見せつけるように放っているが、物腰の柔らかい口調だった。最後には笑う始末。その目に敵意は見られなかった。

 鍛錬に鍛錬を重ねた力を失うわけにはいかない。セラはこのヅォイァという老人の考え方をもっともだと思った。ここにいる全ての戦士が、何もせずに力を得たわけではないだろう。神という超越的な存在の起こすことと言えども、黙って受け入れたい者などいない。

「俺だって、年寄りだからって手は抜かない。全力だ。楽しもうぜ」

「ほほう、手負いとは思えん意気込みだ。楽しめそうでなによりだ」

「……両者っ、いざ尋常に!」エーボシはじれったそうに声を上げた。「はじめっ!」

「相見える戦士の間に流れる空気を壊すとは……」

 ヅォイァは溜め息交じりに言った。しかし試合開始の合図がされたことに変わりはない。彼は眼光鋭く、棒を華麗に振り回し、構えた。戦士の目だ。

「では、行くぞ」

 セラも身構える。「こいっ!」

 老人が突進してくる。ハンスケに比べれば遅い。何ひとつ捻ることなく真っ直ぐと、棒の先端をセラに向けながら。

 あまりにも単調な攻撃にセラは、その場で小さく躱し、反撃しようと考えた。棒が目前に迫った瞬間には、身体を先端からわずかに逸らす。

 称賛の言葉などむしろ失礼に値するような、きれいな回避。そしてそこから反撃に、とその時だった。

 セラの肩口が斬撃によって、血を噴いた。

 その斬撃はどこからともなく現れて、ハンスケのつけた浅い傷口を押し退け、しっかりと彼女の肌に足跡を刻み付けた。

「っく……!?」

 彼女は大きく跳び退き、ヅォイァから距離を取る。肩を押さえながら、相手を見る。その武器は、どう見ても棒。ものを斬れるような得物ではない。

 何か、例えばマカのように実体を持たない力で刃をつけたか。セラはそう考えた。先程の薬も切れ、自身の感覚も普段通りに戻っている。棒を棒としか意識していなかったその感覚の外から、そういった力で攻撃してきたのかもしれないと。

 次からは棒により意識を向けよう。一瞬で考え至り、セラがヅォイァに攻めようとしたとき、思いもよらぬ形で彼の力の答えが与えられた。

 当人からの告白だ。

「これはデルセスタ棒術、蛇爪(じゃそう)という技術だ」

「え?」

「これよりデルセスタ棒術を、その身に体験させてやろう。受けてみよ」

 自信に満ちた笑みを湛えるヅォイァ。戦いを楽しんでいる者の目だった。フェリ・グラデムのしきたりなど気にせずに、今目の前にするセラとの時間を楽しもうとしている。セラにはそう伝わってきた。

 セラも笑う。彼とは純粋に試合を楽しめそうだと。

「いいね、俺が全部、打ち破ってやるよ」

 肩を押さえた手を外し、血に濡れたそこに魔素を集める。

 放たず、形を作り、保つ。

 すでに形のあるオーウィンに纏わせることより難解。長いこと保持することも不可能だろう。

 だが、リーチの長い棒に対して、彼女はこれが必要だと感じた。

 一か八か。普段なら決してやらないことを。見よう見まねで。

 セラの手に、魔素により作られた剣が収まる。

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